蛍火のような恋だった
第9章 愛しているから

(凪side)

季節は色を変えて、秋になりつつある。

俺は今日も、蛍の元に向かう。

9月に入って、学校や部活の忙しさが増して、以前は毎日通っていた病院が、今は2日に1回のペースになっていた。

俺が行けば、蛍はいつも笑顔で迎えてくれる。

もちろん、山田や裕也にも、同じように。

蛍は弱さを見せない。

病院にいるはずなのに、そんなことを忘れてしまいそうになるくらい、明るく前向きで。

本当は病気なんてないんじゃないかと、錯覚を起こしてしまいそうになる。

受け入れたはずの期限なんて、ただのまやかしだと、いつしか俺は自分に言い聞かせるようになっていた。

病院の入り口を通って、待合室の前を通りかかったときだった。

「凪くん」

聞き覚えのある声に、俺は足を止めた。

蛍のお母さんだ。

目の下にはくまができていて、いつもとなんだか様子が違う。

嫌な予感がした。




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