蛍火のような恋だった
第2章 君という人
「昨日の夜、やっぱり緊張して寝れなかったんだー」
「……そう」
車に揺られながら、私は前のミラーを見つめる。
そこに映るお母さんの顔は、いつも以上に神妙だった。
「もう、なにもそんな心配することないよ。私、緊張はしてるけど楽しみにも思ってるから。あ、着いた!」
校門の近く、他の生徒や車の邪魔にならない道路脇にお母さんは車をとめた。
「じゃあ行ってきまーす」
「待って蛍」
ドアを開けようとした私を、お母さんの声が制す。
いつも心配そうに眉をひそめているお母さん。
もう、ずっとお母さんの本当の笑顔を、私はみていない。
笑顔を浮かべているつもりでも、それが本物じゃないことくらい、すぐにわかる。