蛍火のような恋だった
第3章 刻音(こくおん)
転校して、1週間。
6月もあと数日で終わりを迎えようとしている。
「ったく、こんな絵描いてる時間あったら、プールに飛び込みてーよ!」
今は美術の時間。
教室の端で絵を描いている男子の声が聞こえてきた。
「なあ凪、お前もそう思うだろ?」
「俺は別に…どっちでもいい」
中島くんの声に私は一瞬だけ、手を止める。
そして視線をそちらに移動させると、中島くんと目が合った。
小さく笑いかけると、少し戸惑ったような仕草をしながらも、中島くんが先に目を逸らしてしまう。
教室では、中島くんとの会話はない。
転校してきた日から何度か屋上に行ったけど、あの日以来中島くんは屋上に来ていない。
同じクラスのサッカー部の男子の話を聞いていると、今は練習が忙しくて、放課後もかなり忙しいらしい。
あの日は部活が休みだったのだろう。