まほうどうぶつのお医者さん

2


ニーナのお父さんの動物病院は、午前の部が10時から1時まで。午後の部が4時から7時まで。
今は午後3時半。お昼お休みの時間で、動物病院の入り口は閉まっています。

でも、大丈夫。

お父さんの動物病院の裏がニーナの家族の家で、病院と家はつながっているのです。

ニーナたちは、家の玄関から入って、リビングを通りすぎて、病院との境になっているドアを開けます。

「お父さん!!」

「ん!」

ニーナの大きな声に、書類の束に目をとおしていたお父さんはびっくり。

「びっくりした~。おかえり、ニーナ。モカちゃん、いらっしゃい」

「おじさん、こんにちは。おじゃまします」

 モカがそういってお行儀よくあいさつしている横で、ニーナは抱っこしていた犬を診察台にそっとねかせます。

 それから、カーディガンを優しい手つきでめくると、子犬は眠っていました。

 すやすやと気持ちよさそうに寝息をたてていて、ニーナはちょっとほっとします。でもやっぱり、背中の羽には赤い血がにじんでいます。

「お父さん、この子、ケガをしているんだけど」

「どれどれ……、ん? どこ?」

「ほら、背中の羽のとこ」

「羽……?」

きょとんとした顔のお父さん。

ニーナとモカは顔を見あわせます。

この不思議な子犬の羽は、どうやらお父さんには見えないみたい。

自分たちだけに見えるヒミツの羽。

それはちょっとワクワクするけど……、でも今はこまります。

羽が見えないのなら、お父さんにこの子を治してもらうことはできません。

いったいどうすればいいんでしょう。

「じゃあさ、お父さん、お薬だけでもちょうだい。なにかでひっかいたみたいな傷があって、血が出てるの」

「それはできないな。診察していないのに、薬を出すことはできない決まりなんだ」

「そんな……」

「とにかく今できることは……。未来の動物のお医者さん。犬がケガをしたら、まず最初にやるべきことは?」

お父さんがそういって、ニーナははっとした顔をしました。

「ケガをしたら、まず傷口に水をかけて洗うこと!それから、血が出ていたら、軽く圧迫して血を止めること!」

「その通り」

「わかった! ありがとう、お父さん!」

ニーナは子犬を抱きあげてかけだします。

「ま、まって、ニーナ!」

あわてておいかけるモカ。

ニーナがむかった先はニーナの家のお風呂場です。

「ちょっと痛いかもしれないけど、ガマンしてね」

いつのまにか目を覚ましていた子犬に、ニーナは優しくそういって、そっと傷に水をかけます。

ブルッと震える子犬。でも、じっとしています。

「えらい! おりこうさんだね」

ニーナは清潔な布でそっと子犬の身体を拭いて、ケガの部分をじっと観察します。

「もう血は止まっているみたい。このまましばらく様子をみよう。モカ、ちょっとこの子を私の部屋まで連れていってくれる?」

「もちろん」

 ニーナはモカに子犬をあずけて、自分の部屋に犬用のベッドを運びます。

 そして、ニーナのベッドの横に犬用ベッドを並べて、そこに子犬を寝かせます。

「うん!いい感じ!」

「早く元気になあれ」

 ニーナとモカが優しく背中をなでると、子犬は気持ちよさそうに目を閉じて、すーっと眠りにつきました。
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