まほうどうぶつのお医者さん


「はーい。いらっしゃい」

明るい声とともに、魔女さんが現れました。

「こんにちはっ! ニーナと、モカです。今日は、聞きたいことがあって来ました」

一息にそういって、おそるおそる魔女さんのほうを見るニーナ。

魔女さんは、真っ白な紙に丸い眼鏡、お花の紺色のワンピースにあざやかな花柄のエプロン姿。
そして、ニコニコとニーナとモカを見つめています。

「ニーナちゃんとモカちゃんね。待っていたわ。どうぞ、入ってらっしゃい」

魔女さんにうながされて、ニーナとモカはお花畑のようなお庭に足をふみいれます。

「おじゃまします!」

「うわぁ……ステキ」

まるで、絵本の中に入りこんだかのよう。

色とりどりのお花の横を通って、庭の奥にある緑色のガーデンチェアに座ります。

なんだかうっとりした気持ち。

魔女さんは、ステキなティーカップで、いい香りのお茶とお菓子まで出してくれました。

「これは、ハーブティーですか?」

モカが聞くと、魔女さんはにっこり。

「そうよ、よく知ってるわね! 心が落ち着くカモミールと、すっきりした気持ちになるミントをブレンドしたの。どちらも、私がこの庭で育てたハーブよ」

「わー、すごい」

魔女さんのいうとおり、ハーブティーはひとくち飲むと心がほんわりほぐれて、それでいて、頭がすっきりしたような、不思議なかんじ。

バターのたくさん入った焼き菓子にもよくあいます。

「それで、私に聞きたいことっていうのは、なにかしら」

魔女さんの言葉に、ニーナはそっとわたあめちゃんに目を向けます。

「この子が、元気がなくて」

「あら、羽」

「え! 魔女さん、この子の羽が見えるの!?」

モカがびっくりして声をあげます。

「ちょっと、モカ!」

ニーナはあわててモカの口をふさごうとします。
この人が魔女だというのはあくまでもウワサです。
魔女じゃなかったら、「私は魔女なんかじゃない」と気を悪くするかもしれないし、本物の魔女なら、「自分の正体がバレた」とニーナとモカをつかまえて……やっぱりカエルにされちゃうかも!?

「ははは、いいのよ、子供たちが私のことを『魔女』って呼んでいるのは知っているわ」

「魔女さんは……、やっぱり魔女なんですね! だって、この子の羽が見えるなんて!」

モカの目がキラキラと光っています。
その気持ちはニーナにもわかります。
だって、本物の魔女に会えるなんて!

わたあめちゃんの羽は大人には見えないと思ってた。けど、魔女さんには見える。
それってやっぱり……。

「いいえ、残念ながら私は魔女じゃないの」

「でも……」

「ここにはたくさんの草が生えているでしょう。私には、薬草の知識があるというだけ」

「じゃあ、傷を治す薬草を教えてくれませんか?」

「そうねぇ……」

魔女さんはじっとわたあめちゃんを見つめます。

「ニーナちゃんとモカちゃんは、ヨモギって知ってる?」

「ヨモギ餅のヨモギですか?」

「そう。ヨモギはね、その辺にもいっぱい生えてるけど、あれは古くから使われてきた薬草なのよ。お茶にしたり、お風呂にいれたり、スープにいれたり。だけど、犬が食べると下痢になったりする」

「え!」

「つまり、ヨモギは人間には大事な薬草だけど、犬にとっては毒みたいなものってことね。……ねぇ、この子の背中を撫でてもいい?」

ニーナがうなづくと、魔女さんはそっとわたあめちゃんの背中に手をあてます。

「もちろん、犬が口にしても大丈夫な薬草はある。けれど、この子は犬みたいだけど、犬じゃないから……、下手にあげるのはよくないかもしれない」

「そうですか……」

モカが残念そうに肩を落とします。

「キミはどこから来たのかな。どんなところに住んで、なにを食べて、どうやって生きてきたのかな」

魔女さんは優しい声でわたあめちゃんに声をかけます。
優しい声と、真剣なまなざし。
自分の手のぬくもりを伝えるようにわたあめちゃんをなでて、魔女さんは悲しそうに首を振りました。

「ごめんね。私にはなにもしてあげられないわ。お役に立てなくて、ごめんなさい」

「いいえ! ありがとうございます」

苦しそうな表情の魔女さんを見て、ニーナはあわてて立ちあがり、頭をペコリと下げます。
ニーナにつられて、モカもペコリ。

「またいつでも遊びに来てて」


「ありがとうございました!」

最後にもう一度、しっかりとお礼をいって、ニーナとモカは魔女さんの家をあとにします。

「魔女さん……、ほんとに魔女なのかな? ちがうのかな? ニーナどう思う? 私はやっぱり魔女だと思う!!」

モカはなんだか興奮気味。

ニーナはうーん、と考えます。

「魔女さんが魔女かどうかはわからないけど、なんだかお父さんと似てるなぁって思った。」

「え、どんなところ?」

「優しくて、じーっとよく観察してるとこ、かな」


ニーナは魔女さんの言葉を思いかえします。


「キミはどこから来たのかな。どんなところに住んで、なにを食べて、どうやって生きてきたのかな」


なんだか、とても大切なことな気がする……。


わたあめちゃんは、どこから来て、どんなところに住んで、どうやって生きてきたのか……。

ニーナは空を見あげます。

やっぱり、空の上だと思うんだけどなぁ……。

空の上の雲の上。

ありえない? 本当に?

そんなのわからないじゃない。

だって、羽の生えた犬がいることが、もう「ありえない」のですから。

ニーナは考えます。

空の上の雲の国。そこがわたあめちゃんのお家。

どんなところかな。

雲の上、空の高いところ……。


「あ」

ニーナは大きな声で叫びます。

「に、ニーナ?」

「わかった! モカ、来て!!」

ニーナは駆けだします。

そうだ、ぜったいそう!

どうして気づかなかったんだろう!

< 5 / 9 >

この作品をシェア

pagetop