結婚式の日に裏切られた花嫁は、新しい恋に戸惑いを隠せない
エピローグ



海里は釣りが好きだ。
高校生になった今では、しょっちゅうひとりで琵琶湖畔にやってくる。
長期の休みになると、なぜだか坂上のじいちゃんと釣りをしたくなるのだ。

高校の仲間たちは部活だカラオケだと忙しそうだ。今はゴールデンウイークだが、夏休みや秋休みだって、釣りが一番だ。
さすがに冬はスキーがいいが、それ以外は琵琶湖に来るたびにじいちゃんと釣り糸を垂れている。

それにペンションでは坂上のばあちゃんのうまい手料理が食べられる。
母の料理がまずいわけではないが、幼いころに食べた味って、忘れられないものなのだ。

海里の記憶では、みっつくらいまではここで暮らしていた。
次に記憶に残っているのは、骨折で入院したころのことだ。

はっきり覚えていないがジャングルジムから落ちて、鼻を骨折したらしい。
白いフェイスガードで額と鼻を覆っていた写真が残っている。
なんでこんなかっこ悪いのをわざわざ写真に撮ったのかと、父に聞いてみた。

「かっこいいから撮ってくれって、お前が言ったんだぞ」

そんな記憶は、海里にはない。
そもそも、いつ自分に父が現れたのか定かではない。

琵琶湖にいた頃には、父はいなかったはずだ。
だが鼻骨骨折をしたころには、確かにそばにいた。

これだけは不思議なので母に尋ねても、いつも「あれにはびっくりしたよね」と笑っている。







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