結婚式の日に裏切られた花嫁は、新しい恋に戸惑いを隠せない
苦い味
早瀬湊斗はアメリカで生まれ、日本で育った。湊斗の生い立ちは少々複雑だ。
アメリカの大学に留学していた父は、日系二世の母と出会って恋に落ちたそうだ。
父は早瀬電子の社長の息子。母はカフェでアルバイトしていた駆け出しのモデルだった。
ふたりの関係を父の両親が許すはずもなく、事実婚状態になった。その時に生まれたのが湊斗だ。
父はアメリカでIT企業に就職していたが、湊斗が小学校に上がる年に早瀬電子に戻ることになった。
母も一緒に日本にやってきたが、どうにも早瀬家での暮らしになじめなかったらしい。
十歳になったばかりの湊斗を家に残して、アメリカに帰っていった。
家を出て行く母を、今でも湊斗は覚えている。泣いているはずなにの、元モデルだけあって背筋を伸ばした美しい姿だった。
両親の離婚が成立してから、湊斗はずっと母には会っていない。
やがて父は再婚した。
早瀬電子を継ぐ立場だから、周りが放っておかなかったのだろう。
それが今の義母だ。父との間には女の子が生まれた。
異母妹の梨乃と湊斗は一回りほども年齢差がある。
義母は知的な人で湊斗にも平等に接してくれたが、自立心旺盛な湊斗は大学入学と同時に実家を出た。
アメリカの大学に留学したのは、心のどこかに「母に会えるかもしれない」という期待があったからかもしれない。
そんな幸運は現実には起こらなかったが、後悔はしていない。
友人には恵まれたし、会社を立ち上げるきっかけも手に入れた。
アメリカのМ&A大手企業に就職できたことが、湊斗の運命を大きく変えることになった。