結婚式の日に裏切られた花嫁は、新しい恋に戸惑いを隠せない
最悪の出会い
ここは住宅街にあるコンビニエンスストア。
目黒区内といっても高級なマンションやお屋敷がある辺りではなく、ファミリー層が多く住む場所だ。
「店長、お疲れさまでした」
「お疲れ、井口さん。外は暑いから気をつけてね」
「はい」
八月に入って、連日うだるような猛暑の日が続いている。
コンビニでの勤務時間を終えた彩奈は、急いでいた。次のバイトの予定があるからだ。
井口彩奈は結婚式の後、家を出てひとり暮らしを始めた。
あの結婚式の日、彩奈が待ちぼうけになったのには理由があった。
当日の朝、ソーシャルネットワーク上で結婚相手だった守屋徹が別の女性と入籍したという情報が流れたのだ。
本当なのかフェイクなのか情報が錯綜したため、教会への連絡が後回しになったらしい。
彩奈は見る気にもなれなかったが、様々な写真がネット上で拡散されていたようだ。
ハワイの豪華リゾートホテルの一室で、若い女性と徹が素肌のまま寝転んでいるもの。
笑顔で指輪交換している動画。決定的だったのは、婚姻届けを手にしたふたりが笑顔で映っている写真だ。
しっかりカメラ目線だから、ふたりは意図的に結婚式の日にアップしたのだろう。
つまり守屋徹は彩奈と婚約しながら恋人とも関係を持っていて、結婚式の予定をすっぽかしたのだ。
コメント欄は【おめでとう】【ふたりだけの結婚式なんてあこがれる】といった返信であふれたそうだ。
事情を知らない人たちからの無責任な祝福だろう。