結婚式の日に裏切られた花嫁は、新しい恋に戸惑いを隠せない
恋に落ちて


彩奈は湊斗の自分に対する淡々とした態度は、派遣社員に対してなら当たり前だと思うことにした。

歓迎会では小さな個室に大人が五人も座っていたのだ。
湊斗と体が触れそうな場所だったから、彩奈はとても緊張した。

結局、あいさつができなかったからお開きになってから湊斗を追った。

「またお目にかかれるとは思っておりませんだしたが、一年間、よろしくお願いいたします」

それだけ言うのがやっとだった。

「ああ、よろしく」

「お呼び止めして、申し訳ございませんでした」

短い時間だったが、湊斗の表情はピクリとも動かなかった。
彫の深い顔は、夜のネオンの中ではいっそう影が濃い。
一度会ったくらいだから、そこまで記憶に残っていなかったのだろう。

彩奈は早瀬М&Aパートナーズでの仕事に集中した。
あこがれていた秘書という仕事は、実際にはとても忙しい。

スケジュールの管理は基本的なことだが、それ以外にも失礼のないように取引先と対応しなくてはいけないし、会議の準備もある。
社長と副社長は国内外への出張が多いから、交通機関や宿泊先の手配にも気を使う。

もちろん日常的に電話やメールの応対もあるし、資料や議事録の作成もしなくてはいけない。

彩奈ひとりが受け持っているわけではないが、とにかく毎日が目まぐるしかった。



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