結婚式の日に裏切られた花嫁は、新しい恋に戸惑いを隠せない
遠い日々
琵琶湖が日本一大きな湖だとは知っていたが、彩奈にとって知らない土地だった。
春には湖畔の桜並木、夏にはマリンスポーツや湖水浴が楽しめる。
秋になれば湖の周辺だけでなく、近くの寺社仏閣や山々で紅葉が見頃を迎えるし、冬には近くにスキーのできるゲレンデもあって四季折々の魅力にあふれている。
それに京都に近いというメリットもあるし、釣りの好きな人にも人気があって幅広い層が訪れる場所だ。
そんな琵琶湖の近くにあるペンション「レイクサイドガーデン」で、彩奈は働いている。
ペンションのオーナーである坂上夫妻は、誠子がエクセレント誠を立ち上げたころに力になってくれた古参の社員だ。
夫妻は同い年で、五十五になったのを機に退職して故郷に帰ってきた。夫はエクセレント誠でも人気のガーデナーだったし、妻の美和は敏腕家政婦。それぞれの腕を生かしてペンション経営を始めたという。
だからレイクサイドガーデンはオープンして間がないというのに、季節ごとに美しく咲く花やおいしい手料理で評判になっている。
人手が足りないから若いスタッフを求めていると聞いていた誠子が、彩奈を紹介してくれたのだ。
「しばらく東京を離れなさい。こっちのことはなんとでもなるから」
彩奈は急病ということにして、早瀬М&Aパートナーズの仕事は誠子が代理になってくれるという。
迷惑をかけて申し訳なかったが、一日でも早く東京から離れたかった彩奈は誠子の言葉に従うことにした。
湊斗と顔をあわせる危険は避けるべきだと言って、引っ越しもすべて誠子が手配してくれた。
それから慌ただしく月日が流れ、彩奈がここで暮らし始めて四年が過ぎた。