結婚式の日に裏切られた花嫁は、新しい恋に戸惑いを隠せない
償い
早瀬М&Aパートナーズの業績は、ずっと上向いている。
長崎の造船所を再度広島の造船所と合併させて増収増益に導いてからも、新しい事業に次々と取り組んできた。
今や成長軌道に乗っているといえるだろう。
湊斗は連日そつなく仕事をこなしている。
その働きぶりには目を見張るものがあるが、厳しい表情はいっそう湊斗のカリスマ性を際立たせていた。
秘書室のメンバーは、仕事優先の湊斗に「働きすぎですよ」といさめるくらいだ。
だが、その言葉すらも湊斗の耳を通り過ぎていく。なにが湊斗をそうさせているのか、誰にもわからなかった。
***
忙しく働くことでごまかしているが、湊斗の心の中は四年前から止まっていた。
別荘で彩奈と過ごした濃密な時間。
その記憶だけが残っていて、新しい喜びも悲しみも、今の湊斗には感じられない。
あの日。
湊斗と彩奈が別荘に滞在していると聞きつけた義母が突然やって来た。
眠っている彩奈が目を覚ますのではと思うくらい、あれこれと言いがかりをつけるように義母が騒ぎ立てたのだ。
彩奈に聞かせるわけにはいかないと思い、適当に返事をしてホテルまで連れて行った。
なんとかなだめて父に預け、ようやく別荘に帰ったら彩奈は姿を消していた。
一瞬だけ、梨乃の母が来たことを知って、焦ってここから逃げたのかと思ってしまった。
湊斗の心に、かつて義母の言葉を聞いて彩奈を疑っていた時の記憶がよみがえったのだ。
すぐに彩奈はそんな女性ではないと思いなおしたが、逆に不安が押し寄せてきた。
(聞かれたか⁉)
義母が彩奈をののしる醜い言葉の数々。
言わせておけばいいと聞き流していたが、かなりひどい言葉だったのは覚えている。
(誤解したかもしれない)
もし彩奈があれを聞いたとしたら、おそらく湊斗が愛もなく彩奈を抱いたと思ったはずだ。
事実、彼女は消えた。