結婚式の日に裏切られた花嫁は、新しい恋に戸惑いを隠せない
まだ見ぬ先へ



***



彩奈は湊斗に会いたい気持ちはもう消えたと、思い込もうとしていた。
でも間違っていた。湊斗のスラリとした姿を目にした瞬間、彩奈は自分の心に裏切られたことを知った。

四年経った今でも、全身が湊斗を求めている。

湊斗を意識するあまり、車イスを押す手が小刻みに震えた。

父と海里に悟られるわけにはいかない。
だが海里とそっくりな男性を見て、父がなにも感じないはずがない。

倒れた父は体に少し後遺症は残ったが、まだまだ思考は衰えていない。
彩奈が心配した通り、父は何も言わずに湊斗を受け入れた。

信じられないが、井口家の応接室に湊斗がいる。

その現実から、彩奈は逃げ出したくなった。
もう二度と会うつもりはなかったから、彩奈はまったく心の準備ができていない。
海里のことをどう話せばいいのだろうか、それだけを必死で考えた。

父の前で弁解するのもためらわれたが、あっさりと席を外すように言われてしまった。



< 92 / 105 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop