転生モブ令嬢は、死ぬ予定でした 王太子から溺愛されるなんて、誰か嘘だと言って！

3・双子の弟

　――ユキリ・ラクアが今日に至るまでの人生を夢で追体験した雪莉は、驚愕した。

(これが、私……？)

　それが自分の幼少期だと受け入れられないほど、前世と乖離していたからだ。

『ユキリ』

　両親から呼びかけられても、返事すらしない。
　目線だけを動かし、虚ろな瞳で見つめるその姿は――まるで人形のようだった。

『どうしたら、姉さんは俺を見てくれるんだ……』

　どこからともかく、自身を姉と呼ぶ少年の声が聞こえてきた。
　それが前世で大活躍していたイケメン声優だと気づき、この光景を追体験していた雪莉は不思議がる。

(これって、ユイガ・タダベヌだよね？　なんで私を、そんなふうに呼ぶんだろう……？)

　乙女ゲームの本編で彼は、別の家名を名乗っていたからだ。

(こんな設定、聞いたことないけどなぁ……）

　なぜなのかと首を捻ったところで、自分の知っている未来どおりに物語が進んでいくわけではない。

『俺は姉さんが、こんなにも好きなのに……』

　――乙女ゲームは、あくまで二次元の世界の話だ。
　ここが現実になった以上、原作の内容はあり得たかもしれない未来の話程度に思っておくべきだろう。