有能でイケメンクズな夫は今日も浮気に忙しい〜あら旦那様、もうお戻りですか?〜
百一話〜初夜〜
湯浴みを済ませたエレノラは、まだ使った事のない夫婦の寝室に案内された。
ユーリウスは後からくると言われてたので、天蓋付きの大きなベッドの端に取り敢えず座って待つ事にする。
これから初夜を迎えると思うと緊張で心臓が煩く脈打つ。それになにより物凄く恥ずかしい……。
ボニーからはもう少し露出の高いネグリジェを進められたが断固拒否をした。
今身に付けている物でさえ足首まで長さはあるものの生地は透け透けで、部屋が薄暗くなければ身体が丸見えだ。これ以上は絶対に許容出来ない。
「ユーリウス様、まだかしら……」
時計を確認するが然程時間は経っていなかった。ただ手持ち無沙汰で長く感じる。
ふと宴でのユーリウスと父のやり取りを思い出す。父はショックを受けたような顔をしていた。だがあの時、ユーリウスを制止する事が出来なかった。
これまで父には幾度となく困らされてきたが、人が良いから仕方がないと諦めていた。自分が頑張ればいいのだと思っていた。だが彼の言葉を聞いてそれではダメだったのだと気付いてしまった。
(向き合わないとダメよね)
父が帰る前に確りと話をしよう。
これからは父の娘ではなく、ユーリウスの妻して生きていくのだからーー
「ユーリウス様……?」
先程部屋の中に入ってきたはいいが何故か気不味そうにして扉の前に立ち尽くしている。
訝しげに思い呼び掛けるとゆっくりと近付いてきた。
「エレノラ、すまない」
見るからに分かり易くしょんぼりとしているユーリウスはエレノラの前に来ると、ポツリと謝罪した。
いきなりどうしたのかと小首を傾げる。
「君のお義父上を侮辱したつもりはないんだ。だが私は間違った事を言ってはいない。故に訂正をするつもりはない」
どうやら父とのやり取りでエレノラが怒っていると思っているらしい。
あの後、エレノラが考え込み口数が減ったので勘違いをしたようだ。
ただ謝りながらも自分の主張は正しいと宣言する姿に思わず笑いそうになる。実に彼らしい。
「ユーリウス様は間違っていません。ですから謝罪も必要ありませんよ」
エレノラは自分の横を軽く叩いて座るように促す。するとオズオズとしながら横に座った。
しおらしい彼を見て可愛いと思ったのも束の間、行動はいつも通り太々しかった。ちゃっかりと身体を密着させてくる。
「ユーリウス様、くっつき過ぎです」
「これからまぐわうのだから、これくらいは当然だろう」
「まぐわっ……」
直接的な言葉に一瞬にして身体中が熱くなるのを感じた。
エレノラは免疫がないのだから、もう少し言動には配慮して欲しい。
「そんな姿を見せられたら自制も利かない」
「っ‼︎」
すっかり和んでしまい頭の中から抜け落ちていたが、そういえば超絶恥ずかしい格好をしている事を思い出した。
「こ、これはボニーが用意してくれた物で、私の意思ではーー」
言葉を言い終える前に、指で顎を持ち上げられそのまま彼の唇がエレノラのそれに触れた。
驚いて目を見開くと彼の青眼と目が合った。ランプの灯が彼の瞳に反射してとても美しく、恥ずかしいのに目が釘付けになり逸らせない。
舌で唇を舐められ思わず「んっ……」と嬌声に似た声が洩れた。
羞恥心に耐えきれなくなりユーリウスの身体を押して離れようとするが、彼はエレノラの背に腕を回すと更に身体を密着させた。
唇の間に舌を挿し入れるとエレノラのそれに絡み合わせる。
誓いのキスの時とは比にならないくらい激しく、まるで貪られているようだ。生暖かくぬるりとした感触に次第に頭がぼうっとして何も考えられなくなっていく。
「エレノラ」
「っ……」
ようやく解放されたと思った瞬間、ベッドに組み敷かれていた。
覚悟を決めていた筈が動揺を隠せない。
昨夜はこの状態で彼の股の間を蹴り上げてしまったが、今夜はそういう訳にはいかないだろう。
「あ、あの……喉、渇きませんか?」
こんな時に自分でも何を言っているんだと笑えるが、無意識にそんな言葉が口をついてでた。
「確かに渇いている。渇き過ぎておかしくなりそうだ」
「そ、それなら誰かにお水を……」
「早く君の中で満たされたい」
「っーー」
首元に顔を埋められ、ゆっくりと唇が鎖骨や肩へと伝う。その間、彼の手がエレノラの身体の線をなぞるように愛撫していく。
唇が肌を吸い上げる度に身体が小さく震えた。
「堪らないな……」
興奮した様子で次第に息が上がっていくユーリウスは、身体を起こすと髪をかき上げガウンを脱いだ。細身に見えて意外と筋肉質で逞しい。
「エレノラ、綺麗だ」
見下ろす彼と目が合った瞬間、ユーリウスは再び覆い被さってきた。
「エレノラっ……好きだ、好きだっ」
「ユーリウス、さま……っ」
ベッドが激しく揺れ軋む音が薄暗い部屋に響く。
ユーリウスの絶え間ない呼吸音とエレノラの甘い嬌声は、朝方まで続いた。