有能でイケメンクズな夫は今日も浮気に忙しい〜あら旦那様、もうお戻りですか?〜
百二話〜嫉妬〜
翌朝ーー
重い瞼をゆっくりと開けると、視界には筋肉質な男性の胸板が映った。
これは夢? ぼんやりする頭で思考を巡らせながら、取り敢えず目の前の胸板に触れてみた。
「んっ……」
すると頭上から男性の声が聞こえてくる。
エレノラは恐る恐る顔を上げると、そこには端麗なユーリウスの顔があった。
その瞬間、意識は完全に覚醒し昨夜の事を思い出す。
性に疎かったエレノラは、昨夜信じ難い体験をした。
具体的にまぐわう事がどういった事か知らなかったが、キスをして抱き合ってまでは想像出来ていた。だがその後は未知の世界だった。
まさかあんな恥ずかしい事がまぐわう事だとは思わなかった。
ユーリウスはこれまで愛人達とあんな恥ずかしい事をしてきたというのか……。そう考えると少し胸が痛む。
「エレノラ、おはよう」
少し身動いだせいかユーリウスが目を覚ました。
彼は腕の中にいるエレノラを見て優しく微笑む。
「おはようございます……」
「身体は大丈夫か?」
「少し違和感はありますが、大丈夫です……」
下腹部に触れてみた。
すると昨夜、ユーリウスとまぐわった感覚が残っている。
初めは痛かったが、徐々に軽減されていき気付けば快楽に変わっていた。
身体中で彼を感じて幸せだった。
「無理はするな。今日はこのままゆっくり過ごそう」
彼は穏やかな笑みを浮かべエレノラの頭を撫でると額にキスした。
清々しい顔のユーリウスを見て無性に腹が立つ。何故だか分からないが、今は優しくしないで欲しい。
「離れて下さい」
唇を尖らし彼の身体を押して離すと背を向ける。そしてそのまま頭からシーツを被った。今は顔を見たくない。
「エレノラ?」
「話し掛けないで下さい」
子供みたいで情けなくなる。
「もしかして、昨夜激しくし過ぎてしまったから怒っているのか?」
「違います」
的外れな事を言うユーリウスに更に苛々が募る。
「それなら君が嫌だと言っているのに舐めたからか?」
下腹部に顔を埋めているユーリウスを思い出し一気に身体中が熱くなった。
「それとも達しているのに止めなかったからか? いや、身体中にキスマークをつけた事か? それか……」
「分かりましたから、それ以上言わないで下さい‼︎」
エレノラは勢いよく飛び起きると振り返りユーリウスを睨み付けた。
「やっと私を見てくれたな」
「っ……」
目が合うとそっと手を握られる。
「なにか、嫌な事があったなら話してくれないか? 君のためなら直す努力をする」
「……ユーリウス様にどうこう出来る問題ではありません」
「それは聞いてから私が判断する。だから教えて欲しい」
話したところで意味はないと分かりながら、彼からの圧に押されて口を開いた。
「……昨夜、ユーリウス様と床を共にして、とても幸せな気持ちになりました。でも、これまでユーリウス様があんな恥ずかしい事を沢山の女性達ともしていたと思ったら、胸が苦しくなってしまって。私、知らなかったんです。まぐわうとはどんな事かを」
以前ユーリウスとフラヴィの事でもやもやした気持ちになったが、それとは比にならないくらい苦しい。自分でもどうすればいいか分からない。
「エレノラっ、すまない……」
顔を歪め謝罪する彼にエレノラは首を横に振る。
少し考えれば分かった筈なのに浅慮だった。
無知だった自分が恥ずかしくなる。
それにこんなに自分が嫉妬深いなんて思いもしなかった。もしかしたら、自分が思っている以上にユーリウスの事が好きなのかも知れない。
「ユーリウス様のせいではありません。私が無知で覚悟が足らなかっただけです」
「いや違う、全て私が悪いんだ……泣かないでくれ、エレノラ」
「っ……」
ユーリウスの手が頬に伸ばされ親指でエレノラの目元を拭った。
言われるまで気付かなかった事に驚きながら、泣いている事を自覚した瞬間、涙が止めどなく溢れ出す。
すると彼は目元にキスをしながら涙を拭ってくれた。
「エレノラ、もう二度と君以外の女性には触れないと約束する。もし私が約束を破るような事があれば、アソコを斬り落としてくれて構わない」
「っ⁉︎」
居住まいを正し真剣な眼差しでとんでもない事を口にするので、その瞬間、涙は引っ込んだ。
「ユーリウス様、なにを仰るんですか⁉︎」
「私は本気だ。それに約束を破るつもりは毛頭ない。ただそれだけの覚悟をしている事は覚えていて欲しいんだ」
なんだかズルい人だなと思った。そんな風に言われたらなにも言えなくなる。
「後、信じて貰えるかは分からないが、あんなに激しく抱いたのは初めてだ。それに舐められた事はあっても舐めた事はない。キスマークもつけた事はないし、一晩でするのは精々二回で六回もした事は」
「わ、分かりましたから‼︎ だからそんな恥ずかしい事を口に出さないで下さい‼︎」
その後、昼過ぎまでベッドの上でエレノラとユーリウスは抱き合っていた。