有能でイケメンクズな夫は今日も浮気に忙しい〜あら旦那様、もうお戻りですか?〜
エピローグ
あれから父や弟達は数日滞在した後、ユーリウスの手配した侍従達と共に生家へと帰って行った。
父は未だに落ち込んだ様子ではあったが後悔はしていない。また弟達にもこれからはフェーベル家を家族皆で支えていくようにと伝えた。
まだ余り理解出来ていないようにも思えたが、ユーリウスが優秀な家庭教師を見つけてくれたのできっと大丈夫だろう。
結婚式から一週間、エレノラは特別休暇中のユーリウスと穏やかな時間を過ごした。
一緒に食事やお茶をして、庭を散歩したり街へ買い物にも出掛けた。
夜は一緒のベッドで眠り、朝一緒に目覚める。こうやって少しずつ本当の夫婦になっていくのかも知れないとしみじみ思う。
毎日幸せで不満はないが、そんな中で一つだけ悩みがある。
夫婦とは毎日まぐわうものなのだろうか……。初夜を迎えてから毎晩、ユーリウスから求められては応じている。気持ちは嬉しいが正直体力的に厳しい。
ただユーリウスも今日からまた出仕なので流石に落ち着くだろうか……。
(せめて二日に一回にして貰わないと、身体が持たないわ……)
もう少し様子を見てから話し合うかを決めようと考えている。
「若奥様、こちら公爵様からお預かりして参りました」
今朝、スチュアートから大きな布包みを受け取った。開けてみると中からは約束していた祝い金が出てきた。
「ミル、見て頂戴。こんなに沢山あるわ」
シュウ!
本来はこの祝い金で借金返済をする予定だったが必要なくなった。
実はフェーベル家の借金とその利息はユーリウスが肩代わりしてくれた。なので普通ならばユーリウスに少しずつ返済すべきなのだが、その必要すらなくなった。
何故なら父に借金を押し付けて逃げた知人をユーリウスがどこからともなく探し出してきて、更に当人に借金を返済させるという。故にフェーベル家の負債はなくなったのだ。
改めてユーリウスの優秀さを実感して感謝した。
「改まって話があるとはどうしたんだ?」
それから数日後の夜。
エレノラは就寝前にユーリウスに話がしたいと申し出た。
「実は以前から薬屋を開こうと考えていまして、ユーリウス様の許可を貰いたいんです。勿論勉強を疎かにはしません!」
ユーリウスには余り話をしてこなかったが、庭に畑を作った理由やクロエの診療所の手伝いをしてきた事などを簡潔に説明をした。
「それは本当に君が自分の意志でしたい事なのか? また自分を犠牲にして人助けをするつもりなら許可は出来ない」
「これはあくまで商売であり、慈善事業ではありません」
ただ商売ではあるが、その副産物として人のためにはなる筈だ。
実は先日クロエからこれからどうするのかを聞かれた。
将来の公爵夫人としての教育が本格的に始まるので、本来ならば診療所の手伝いは辞めなくてはならない。それにもう生家のためにお金を稼ぐ必要もなくなった。
『君の作った薬は通常の物よりも効果が高い。
実は私はたまに娼館などにも呼ばれるんだが、彼女達は常に病に脅かされながら生活をしており重い病を患っている者も少なくない。正直、従来の薬では効果は期待出来ずにいた。だが君の作った薬を使い初めてから、彼女達は確実に快方に向かっている。医師として、出来ればこれからも薬を作って貰いたい』
クロエからの申し出に流石に戸惑った。
エレノラは特別な調合法や材料を使用している訳ではない。なのでごく普通の薬を作っていたと思っていた。だがまさかそんなに効果があるとは驚きだ。
そして話を聞きながら以前娼館を訪れた時の事を思い出した。
一見すれば夢のように華やかな世界に思えたが、彼女達は過酷な現実の中で生きている。そんな彼女達が自分の作った薬を必要としているーー
クロエには少し考える時間が欲しいと告げた。
それから数日真剣に考えた。
そして出した結論は、いっその事当初の予定通り薬屋を開業をするというものだ。
祝い金は全て自分のために使う事が出来るし、これまで毎月貰ってきた品位維持費もクロエからの給金も以前ユーリウスから貰った報酬も全て貯めてある。
大きな店は難しいが、小さな店なら開く事は出来る筈だ。また庭の畑の薬草達もすくすくと育ってくれているし薬の卸先もある。
一つ問題があるとすれば、仕事に勉強にと時間が足らなくなる事くらいだろうか。
「分かった、許可しよう。まあ君はまだ若いからな。公爵夫人としての教育も少しずつやっていけばいい。そうだな、開業するにあたり私も協力しよう」
「え、ユーリウス様がですか?」
「なんだ不満か?」
「いえ、ですがお忙しいと思いまして」
「見縊るな。私を誰だと思っているんだ。私はブロンダン公爵家の嫡男であり、グラニエ国の王太子殿下の側近……」
「改めて仰られなくても知っていますから!」
それからエレノラはユーリウスの力を借りながら街の一角に小さな薬屋を開いた。
これまで通りクロエへ薬を卸しながら、一般の人々へも販売をし店は大盛況を見せた。
「ユーリウス様、もう少し上です」
「ここか?」
「いえ、もう少し左……ああ、そこです。気持ちいい〜」
エレノラはベッドにうつ伏せになりその上にはユーリウスが乗っていた。実は彼がマッサージをしてくれている。
分かってはいたが、勉強に仕事にと毎日目が回りそうな程忙しく疲労が溜まっていた。無論彼も同じなのにも拘らず労ってくれる事に感激する。
「ユーリウス様、ありがとうございました。次は私がマッサージをしますね」
お陰で大分身体が軽くなった。
「いや、私は大丈夫だ」
「ですが……」
「それより、君を抱きたい」
(まさか、そのためにマッサージしてくれたの⁉︎)
確かにこの半月程、エレノラが疲れて直ぐに寝てしまっていたのでしていない。
ユーリウスを見れば期待に満ちた顔でこちらを見ている。まるで待てをしている犬のようだ。
「エレノラ、もう待てないっ」
「え、ちょっと、ユーリウス様、落ち着いて下さい!」
そのままベッドに押し倒されてしまう。
身動ぐが体重を掛けられ意味をなさない。
「嫌だ、今直ぐ君の中に入りたい」
「ユーリウス様っ、あ、だめ……」
結局、その晩は朝方まで離して貰えず翌日は全身筋肉痛の睡眠不足になった。
久々だった事もありかなり激しかった。
(六回もするなんて、どうかしてるわ! この駄犬〜〜‼︎)
心の中で叫びながらエレノラは隣で満足そうな顔で寝ているユーリウスの頬を指で突っつく。すると眉根を寄せた。
「ん"……」
「ふふ」
思わず笑って、その頬にそっとキスをした。
終わり