有能でイケメンクズな夫は今日も浮気に忙しい〜あら旦那様、もうお戻りですか?〜

十四話〜愛人達のお茶会〜



 招待状が届いてから数日後ーーフラヴィ主催のお茶会にエレノラは参加していた。
 場所はドニエ家の屋敷で、想像した通りの豪邸だ。
 一応参加するからには予備知識が必要と思いフラヴィ・ドニエに関してボニーに聞いておいた。
 フラヴィの生家のドニエ侯爵家は有力貴族でありかなりの資産家、昔からブロンダン家とも親交深い家らしい。彼女の上には四人の兄や姉がおりフラヴィは末っ子で、年齢はユーリウスと同じ二十四歳という事を聞いた。
 余り役に立つかは分からないが、一応念頭に入れて置く事にする。
 

 エレノラが中庭へ案内をされると、既にそこには総勢二十人程の令嬢達が座っていた。
 そしてその全員がユーリウスの愛人だと思われる。

「後から現れて、私達のユーリウス様を奪うなんて不届き千万です」

「泥棒猫とはまさにこのような事をいうのでしょうね」

「しかも聞いた話では、随分と田舎からいらしたとか」

「ブロンダン公爵も何故このような田舎者をユーリウス様の妻に選ばれたのかしら」

 席に着き挨拶もそこそこに、令嬢達から次々に嫌味を浴びせられた。

 先日、ロベルトから言われた言葉が頭を過ぎるが、やはり彼女達の言動はエレノラには理解出来そうにないと苦笑する。

「あの、皆様はユーリウス様をお好きなんですよね?」

 素朴な疑問を投げかけてみる。するとーー

「当然ですわ」

「勿論、お慕い申しております」

 口々に同じような答えが返って来た。

「フラヴィ様も同じでしょうか?」

「えぇ、愚問です」

「それなら何故、どなたもユーリウス様の結婚相手に名乗りを上げなかったのですか?」

 フラヴィに至っては断ったと聞いているし、ロベルトからの説明ではどうしても納得が出来ない。

 その瞬間、騒がしくしていた彼女達はどこかバツの悪そうな表情を浮かべ黙り込んだ。

「貴女のような愚鈍な方には理解出来ないと思いますが、ユーリウス様のようなお方を、誰か一人が独占するなんて罪深き事です! ですから私達はユーリウス様を皆様でお支えしているんです」

 そんな中、声を上げたのはやはり群れのボスである彼女だった。
 鼻高々に話すフラヴィの言葉に皆賛同するように頷いているが、なんだか腑に落ちない。

「それって、愛なんですか?」

 エレノラは恋をした事はない。だから異性へ向ける愛はよく分からない。だが、家族への愛なら分かる。
 彼女達の言葉を聞いて、ただただ虚しいと感じた。
 ユーリウスが彼女達をどう思っているかは知らないが、少なくても彼が彼女達を愛しているとは思えない。詳しい関係性は分からないが、身体を重ねるだけの行為は愛とは言わないと思う。それにーー
 エレノラは改めて、座っている令嬢達を見た。フラヴィを始めとして、皆エレノラよりも年が上であり適齢期は疾うに過ぎていると思われる。
 彼が本当に彼女達を思っているならば、関係を終わらせるべきだ。
 このまま歳を取れば、彼女達はどうなるのだろうか。ずっと日陰者として生きていかなくてはならない。その内、生家が代替わりすれば帰る場所すらなくなってしまうかも知れない。
 お金の為に結婚した自分が言えた義理ではないが……明確な目的のある政略結婚の方がまだマシに思えた。
 ただこれはエレノラの考えであり、彼女達からしたら大きなお世話なのかも知れないが。

「……愛、ですわ」

 ポツリと呟いたフラヴィの声に、また令嬢達は黙り込んだ。
 気不味い空気の中、皆一様に誤魔化すようにお茶を飲んだり焼き菓子を食べ始めた。

 内心ため息を吐きつつエレノラもお茶を飲もうとカップを持ち上げると、なんと中には虫が入っていた。それも割と大きい……。
 流石のエレノラも一瞬目を見張る。
 そんな様子にクスクスと令嬢達の声が聞こえてきた。言うまでもなく嫌がらせだろう。
 なんというか、しょうもない。

「ミル」

 肩と髪の間に隠れていたミルを呼ぶ。
 すると白い毛玉がひょっこりと姿を現した。
 そしてエレノラはスプーンで虫を取り出すとーー

「はい、ミル、おやつよ。あ〜んして?」

シュウ!

 どうやらお腹が空いていたらしく、嬉々としてもぐもぐするミルの姿に、令嬢達は悲鳴を上げた。

「美味しい?」

シュウ〜!

「あの、お代わりはありますか?」

「い、嫌〜‼︎」

 真面目に聞いたのに、その瞬間皆一斉に席を立つと逃げるように去って行った。

シュウ……

「ミル、ごめんね、お代わりはないみたい。お腹空いちゃったわね。私達も帰りましょう」

 お代わりがなくて落ち込むミルを撫でて慰めると、エレノラも席を立つ。
 それにしても招待されたから来たのに、主催者まで逃げてしまうなんて失礼過ぎる。

「ご馳走様でした」

 困惑する侍女達へ声を掛けて、その場を立ち去り帰路に着いた。
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