有能でイケメンクズな夫は今日も浮気に忙しい〜あら旦那様、もうお戻りですか?〜
十六話〜奇人〜
「なんだよ、それ」
「見た目は芋っぽく、中身は奇人だ」
「いや全然分からん!」
ユーリウスの説明に納得いかないのか、セルジュは不満そうな目を向けてくるが、これ以上の説明のしようがない。
「でも、お前にそんな顔をさせる奥方は凄いな」
頬杖を付きニヤリと笑みを浮かべる。
「ほぼ顔を合わせていないがな」
思えば大して関わっていない。
初めて対面した時に数分会話をし、その後は初夜に出掛けてから屋敷には一ヶ月近く戻らなかった。戻った理由も夜会の準備の為で、その際にまた少し会話をしただけだ。
夜会では顔を合わせたが会話などはしていないし、その後も屋敷で何度か顔を合わせはしたがやはり会話らしい会話はしていない。
「それなのにそこまで嫌がってるのか?」
「まあ、そうなる」
冷静になって考えると、何をそんなにムキになっているのだろう。
父が勝手に決めた結婚だから嫌なのか?
そもそも政略結婚など貴族なのだから当然だろう。それに年齢的にもそろそろ結婚しなくてはならない。だが、中々相手が見つからない状況だった。理由はユーリウス自身がよく分かっている。女性関係だ。
昔からブロンダン家と親交の深いドニエ家の次女のフラヴィとの結婚話は有力だったが、フラヴィが頑なに拒否した為に白紙になった。
その後は、父が方々に結婚相手を探していたが、ユーリウスの女癖の悪さにどの家も難色を示した。無論下級貴族ならば直ぐに相手は見つかるだろうが、ブロンダン家の家柄を考えると受け入れ難い。
父からはもう少し女遊びは控えるようにと何度か苦言を呈されもしたが、やめる事が出来ないでいた。
そんな中で痺れを切らした父がどこからともなく結婚相手を見つけてきた。それがエレノラだ。
田舎貴族ではあるが一応は伯爵家の娘だ。
だが幾ら何でもあんな芋娘を妻に迎えるなど、父もどうかしている。しかも容姿だけでなく、中身もガサツで更には奇人だった。
何もかも自分には相応しくない。
自分に釣り合うのは気品がありお淑やかなフラヴィのような女性だ。あんな芋娘では断じてない。
「なあ、ユーリウス。この辺でそろそろやめにしたらどうだ?」
「……どういう意味だ」
「俺も昔は散々遊んだが、愛妻家になるのも存外悪くないぞ。誰か一人を本気で愛して護る事は快楽にも勝る」
セルジュも昔は、ユーリウスのように女遊びが激しかった。だが今では自称愛妻家の実際は妻の尻に敷かれている情けない男に成り下がってしまった。
「ただ単に尻に敷かれているだけだろう? 情けない奴だ」
「はは、まあそうとも言うな。だが俺は今幸せだ。それで十分だろう?」
セルジュの言葉にユーリウスは鼻を鳴らす。
「完全に飼い慣らされているな、呆れる。私は絶対に君のようにはならない」
冗談じゃない。
何故自分があんな芋娘の尻に敷かれなくてはならないのか。あり得ないだろう。
ユーリアスは苛つきながら、ワインの入ったグラスを煽った。