有能でイケメンクズな夫は今日も浮気に忙しい〜あら旦那様、もうお戻りですか?〜
十八話〜外出〜
簡易ドレスに着替え小さな鞄を肩から下げて動き易いブーツを履く。その上にはマントを纏った。最後に肩にミルが乗れば完成だ。
「うん、完璧ね」
シュウ!
準備を整えたエレノラは用意して貰った馬車に乗り込み街へと向かった。
ボニーに街を観光したいと話すとお供を付けると言われたがどうにか断った。
今日の本当の目的は物件探しと薬草採取だ。
ロベルトには反対されたが、彼は今騎士団の遠征でいない。
遠征前日にやって来て散々ボヤいて帰っていった事を思い出して苦笑する。
『行きたくない、行きたくない、行きたくない‼︎ 嫌だ〜帰りたい〜』
まだ行ってもいないのにそんな事を喚いていた。
時々、本気でエレノラの弟達より幼く見える。本当にしょうもない人だ。
ただこれで暫くは平穏に過ごせそうだ。
「大きな街ね」
程なくして馬車は街の入り口に到着をした。
馭者に夕方にまた同じ停車場所に来て貰うように告げると、一人歩き出す。
ブロンダン家に嫁いできた時に、馬車の窓から遠目で見た時も大きいと感じたが、実際に訪れるとその規模に圧倒された。
エレノラの暮らしていたフェーベル家の領地は小さな村が点在しているだけで、街と呼べる場所はなかった。隣接するコルネイユ侯爵領には町はあったが比べ物にはならない。
「先ずは、不動産屋を探さないと」
往来を歩いていると、左右には所狭しと建物が並んでいる。
パン屋に食堂、服屋、靴屋、本屋、金物屋、その他諸々と生活に関する全てが揃いそうだ。
「あら、もしかしてここ?」
暫く歩いていると、割とすんなり不動産屋が見つかった。エレノラは嬉々として店内へ入ったが、数十分後ーー
「ダメだわ、高過ぎる……」
放心状態でエレノラは店内から出てきた。
どの賃貸も、一番安いものでも予想していた額の五倍はあった。物価が違う事は重々理解していたが甘かった……ど田舎とはまるで違う。
(都会って恐ろしいわ……)
シュウ……?
「心配しなくても大丈夫よ、ミル。取り敢えず次よ、次」
心配そうに見てくるミルの頭を撫でてつつ、気を取り直して相乗り馬車乗り場へと向かう。次は薬草の採取だ。
乗り合い馬車に揺られる事、二時間程。
ようやく目的地である小さな町に到着した。
「はぁ、馬車が混んでてちょっと疲れちゃった」
シュウ……。
「ミルもお疲れ様」
疲れた原因は混んでいた事もあるが、実は隣に座っていた怪しげな人物からの視線も理由だった。
頭からすっぽりとマントを被っていたため顔などは確認出来なかったが、明らかにエレノラを見ていた。それも馬車が出発してから止まるまでずっとだ。
逃げるように馬車を降りてその場を離れたので、流石に追っては来なかったが未だにモヤモヤする。一体何だったんだろうか……。
思わずため息が出てしまうが、折角ここまで来たのだからそんな些末な事を気にしている場合じゃない。
ただ時刻はまだお昼前だ。
これから近くの野山で薬草を採取する予定だが時間は優にあるだろう。
先ずは出発前に適当な露店で昼食用のパンを買った。水は持参しているので問題はない。これで準備万端だ。
「さあ、ミル、行きましょう」
シュウ〜!
町を出て程なくすると野道に出た。
地図を広げ確認をすると、このまま行けば山道へと続いているようだ。
「あ、エストラゴンがあるわ!」
歩いているとさっそく薬草を発見した。
エレノラは肩から下げている鞄から手袋と麻袋を取り出す。
いつも薬草採取に出掛ける時の必需品だ。
「料理の風味付けにもいいし、不眠症や消化不良にも効果があるし結構重宝するのよね」
他にも食欲増進、健胃、強壮の効果がある。
適当な量を摘み終えると、エレノラは山道を目指して再び歩き出した。