有能でイケメンクズな夫は今日も浮気に忙しい〜あら旦那様、もうお戻りですか?〜
二十二話〜帰路〜
気不味い。
どうしてこんな状況になっているのか分からない。
エレノラは隣に座るユーリウスをチラリと盗み見て内心ため息を吐いた。
パンを取り上げられた後、返して欲しいと嘆願すると、何を思ったか彼はパンを放り投げた。するとパンは少し離れた場所に転がり、偶然通り掛かったキツネに持っていかれてしまった……酷過ぎる。
ショックを受けている間に腕を引っ張られ引き摺られるようにして町の乗り合い馬車乗り場まで連れて来られ、その後は有無も言わせずユーリウスと馬車に乗る事となり今に至る。それにしてもーー
(お腹、空いた……)
普段なら一食抜くくらい大した事ではないが、久々に身体を動かした事と目の前にあったのに食べそびれた所為か異様にお腹が空いている。
因みにミルは山で沢山虫を捕まえて食べていたので、お腹いっぱいで今は膝の上で眠っていた。
グゥ……
またお腹が鳴った。
周りに沢山人がいるので恥ずかしくはあるが、今は羞恥心よりも空腹感が優っておりどうでもいい気分だ。
「お嬢ちゃん、お腹空いているのかい? 良かったらこれをお食べ」
そんな時、向かい側に座っていた中年の女性が焼き菓子の入った布包みを差し出してきた。
「良いんですか? ありがとうございま」
「失礼、私の許可なく食べ物を与えないで貰えるか」
嬉々として手を伸ばすが、包に手が届く事はなかった。何故ならユーリウスが先に受け取りそれを女性へ返してしまったからだ。
「ユーリウス様、何をするんですか⁉︎」
周囲の人達に配慮して小声で抗議するが、彼は鼻を鳴らすだけで全く取り合おうとしない。
(それに食べ物を与えないでって、私はペットかなにかじゃないんですけど⁉︎)
結局、女性にはお礼だけを言い諦めるしかなかった。
それから街へ到着するまでの間、彼は一言も発する事はなく、終始不機嫌そうにして座っているだけだった。
ようやく城下の街へと到着した頃には日が暮れていた。
馬車から降りたエレノラはユーリウスに向き直り丁寧に頭を下げる。
「ユーリウス様、本日は危ない所を助けて頂きありがとうございました。このご恩は何れ返せたら返します」
彼のようになんでも持っている人に返せる恩などあるのかは分からないが、一応気持ちだけは伝えておく。
そもそも何故ユーリウスはあんな所にいたのだろう。偶然とは思えない。まさかエレノラの後を付けて来ていたのではと思わずにはいられない。なら何の為に? まさか気に入らない妻を始末……いや、それなら狼から助けてくれた意味が分からない。もしかして自分で息の根を止めなくては気が済まないとか……。
(私、そこまで嫌われているの⁉︎)
確かに以前口答えはしたが、幾らなんでも心が狭過ぎるだろう。
それならまだ離縁してくれた方がマシだ。
いきなり始末は酷いと思う。
お金持ちの考える事は分からない。
(いや、まさかね。考え過ぎよ……)
兎に角、これ以上側にいるのは危険だ。
「では、私はこれで……」
一刻も早くユーリウスから離れたい一心で背を向けた。
それにブロンダン家の馬車の迎えの時刻は疾うに過ぎている。
エレノラは朝の場所へと向かおうとするが、またもや腕を引っ張られた。
「何処へいくつもりだ? 勝手に動くな」
どうやらすんなり解放してくれるつもりはないみたいだ。
(まだ報酬貰えていないのに……)
捕まえた獲物は逃がさないという事だろうか……終わった。