有能でイケメンクズな夫は今日も浮気に忙しい〜あら旦那様、もうお戻りですか?〜
二十五話〜引き取り料〜
身なりを整えたエレノラは、迎えに来たカリナに連れられ今度は応接間へと通された。
部屋の中へと入ると、ソファーに足を組んで座り葉巻を吸っているユーリウスと対面をする。彼もまた着替えたらしく先程とは違う服装をしており綺麗になっていた。
それにしても何をしていても何故こんなに偉そうなのかと呆れてしまう。
「まあ、少しはマシになったな」
そして本当に失礼極まりないと内心ため息を吐いていると、不意にユーリウスは席を立ちエレノラの前に立ち塞がった。
次は一体何をするつもりかと思わず身構えていると、手にしていた麻袋を取り上げられてしまった。
「何をするんですか⁉︎ 返して下さい!」
このクズ男、絶対に捨てる気だ。
折角あんなに頑張って採ってきたのに酷過ぎる。それに何よりもったいない!
エレノラが嘆願していると、彼は麻袋を側に控えていた男性店員に手渡した。
「後で屋敷に届けてくれ」
「え……」
捨てられてしまうと思ったので、意外な言葉に驚いて目を丸くする。
「なんだ、捨ててもいいなら」
「だ、ダメです‼︎」
どうにか捨てられずに済んだと胸を撫で下ろすも束の間、また腕を掴まれた。そしてそのまま娼館の外へと引っ張られる。
「あの!」
「……何だ」
「私、売られるんじゃないんですか?」
「売る? 何の話だ」
ユーリウスはエレノラの言葉に足を止めると振り返り怪訝そうな顔をする。
「ですから、私を娼館に!」
売る為に身なりを整えさせたに違いないと身構えていたが、何故か娼館の外へ連れ出された。
彼は暫し沈黙の後、エレノラを見ながら鼻で笑った。
「正気か? 君のような芋娘を本気で娼館に売れると思っているのか? 寧ろこちらが引き取り料を支払わなくてはならなくなる」
「っ‼︎」
確かに自分でも芋に需要はあるのだろうかと本気で思ったが、幾ら何でもハッキリ言い過ぎだろう。
怒りたいやら恥ずかしいやらで顔が熱くなるのを感じる。
ただ図星なので、言い返したいのに言い返せないのが悔しい。
「だがそんなに娼館で働きたいのなら、引き取り料を支払ってやってもいいぞ」
「結構です‼︎」
ユーリウスは少し悩む素振りを見せた後、最悪な提案をしてきた。なので速攻でお断りをする。
(そんなお金があるなら、そのまま私が貰って借金返済に当てたいくらいよ‼︎)
無言で睨み付けると彼はせせら笑った。実に憎たらしい。
「良い加減、離して貰えませんか?」
その後、娼館を出てから大通りに戻ってきた。
また何処かへ向かっているらしく馬車には乗らずに歩いているのだが、その間、ずっと腕を掴まれいた。
「一人で歩けます」
「ダメだ。手を離したら逃げるだろう」
一々物言いが引っかかる。
エレノラは、私は脱走するペットか何かかと口を尖らせた。
「逃げません、多分……」
思わず本音がダダ漏れてしまい、肩越しに振り返ったユーリウスに睨まれた。
だが仕方がない。
久々の薬草採取や身なりを整えられたり慣れないドレスを着て歩かされたりと疲労困憊している。極め付けはお腹が好き過ぎて倒れそうだ。
正直、今直ぐに帰りたい。帰ってご飯をお腹いっぱい食べた後は、ベッドに倒れ込み泥のように眠る自信がある。
(誰か、私をこのクズ男から解放して〜〜〜‼︎)
エレノラは、心の中で悲痛な叫び声をあげた。