有能でイケメンクズな夫は今日も浮気に忙しい〜あら旦那様、もうお戻りですか?〜

三十話〜手紙〜


 今朝、弟達から手紙が届いた。
 実は嫁いできてから数日に一度のペースで届けられている。
 内容は大体同じで、嫁いだエレノラを心配するものだ。

『姉様、ご無事ですか⁉︎ 都会の貴族達に虐められたりしていませんか⁉︎ 都会の貴族(やつら)は(規制)ーー僕は姉様がいなくて、毎日寂しくて寂しくて寂しいです。それで、いつ離縁されますか? 日取りが決まったら直ぐに連絡して下さい! 楽しみに待ってます! オーブリー』

 相変わらずオーブリーは口が悪いと苦笑する。
 昔から口煩く注意をしているが一向に直らないのが悩みだ。

(それにしても離縁の日取りって……)

 今の所、そんな予定はないのだが。
 というより、少なくても挙式をするまでは離縁は絶対に出来ない!

『姉様、お元気ですか? 僕は毎日元気に過ごしています。そういえば先日、道で人と打つかってしまって相手の男性が肩を怪我をしてしまい、可哀想なので治療費をお渡ししました。その事を父様に話したら、褒められました! 人助けが出来て嬉しいです。 リュシアン』

(もしかしなくても、それって当たり屋⁉︎ 詐欺じゃない‼︎)

 最悪だ。
 父や弟達を残して生家を離れる事は心配だったが、やはり危惧していた事が起きている……。
 取り敢えず被害状況を確認しなくてはならないが、知るのが怖い……。
 
 エレノラは手紙を一通り読み終えると、深いため息を吐いた。
 昔から直ぐ下の弟のオーブリーは、寂しがり屋の甘えん坊で少し……いや、かなり口や態度が悪く手を焼いている。そして二番目の弟のリュシアンは、穏やかでマイペース、父譲りのお人好しで目が離せなかった。

 父もあんなんだし、心配過ぎる。
 使用人達には確りと父達の事はお願いしてきたが、やはり限界があるかも知れない。
 
「……まあ、考えた所でどうにもならないし、取り敢えず返事を書きましょう」

 現実逃避しつつ、エレノラはペンを取る。
 弟達と後使用人にも状況確認の為に書かなくてはならない。


 暫くして手紙を書き終えたエレノラは、今度はいそいそと支度を始めた。
 数日前に行ってきたばかりだが、実は今日これからまた街へと出掛ける予定なのだ。
 
 部屋の隅っこに置かれている麻袋へ視線を向ける。
 あの後、ちゃんと薬草の入った麻袋は無事屋敷に届けられた。
 
 まだ店を出す場所の見当もついていないが、取り敢えず久々に薬の調合でもしようかと思った。ただ大事な事に気が付いてしまった……道具がない。
 余り無駄遣いはしたくないが、これは必要経費なので致し方がないだろう。
 こんな事なら生家にある道具を持ってくれば良かった。無論送って貰う事も検討したが、あれは母の形見でもあり大切な物なので人に任せるのは不安だと断念した。



「よし準備は万全ね! ミル行きましょう」

シュウ!

 前回同様、外出用の簡易ドレスに着替え小さな鞄を肩から下げて動き易いブーツを履く。その上にはマントを纏った。最後に肩にミルが乗れば完成だ。
 予めボニーには街へ買い物に行く事は伝えてある。やはり一人は心配だと言われたが、今回もどうにか断った。
 一人の方が身軽だし、今日は山に行く予定もないので懸念もない。だが次薬草採取に行く時は、狼対策をしなくてはならないだろう。
 ただエレノラに剣の心得はないし、護衛を雇うのはかなりお金が必要だ。悩ましい……などと考えながら部屋を出るとーー

(誰⁉︎)

 見知らぬ青年と目が合った。
 すると彼は爽やかな笑顔を浮かべ話し掛けてくる。

「ユーリウス様より、若奥様の護衛を命じられましたヨーゼフ・デットマーです。この身にかけて必ずや若奥様をお守り致します!」

 エレノラは突然の事に呆然としながらも思った、彼は護衛などではなく監視役に違いないと。
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