有能でイケメンクズな夫は今日も浮気に忙しい〜あら旦那様、もうお戻りですか?〜
四十八話〜奇妙な顔ぶれ〜
ユーリウスと愛人、王太子とモモンガと私。
何だか三流小説の題名みたいで、愛憎劇(時々喜劇)でも始まりそうな予感がするくらい奇妙な顔ぶれだ。
口止め料の代わりに出席をしているので文句を言える立場ではないが、アンセイムが何故この面々にしたのかは疑問に思った。
エレノラはフラヴィがいても特に気にしないが、普通なら修羅場になってもおかしくないだろう。まさか、それを狙っているとか……。
いやアンセイムがそんな事をする理由もないし、彼は良い人だしあり得ない。
お茶会が始まると、アンセイムが「今日は私がお茶を振る舞おう」と言って順番にカップにお茶を注いでいく。
シュウ〜!
そんな中、テーブルの上に設置されたミル専用の空間で先程まで怒っていたミルが上機嫌に寛いでいる姿を見て、細かい事はまあいいかという気持ちになった。
全員分のお茶が淹れられ冷めない内に飲もうとカップに触れた時、ふとフラヴィが視界に入った。
すると彼女は俯きお茶に手を付けようとしていない事に気付いた。
一瞬、体調でも悪いのかと思ったが直ぐにピンときた。既視感とはまた違うが、この感じを知っている。
何故なら以前エレノラが体験したからだ。
ユーリウスを見れば隣で優雅に澄まし顔でお茶を飲んでいる。
自分の愛人が困っているのに、何知らん顔してるのよ‼︎ このクズ! と言ってやりたい。
ただまあフラヴィの場合は、彼女自身が同じ事をしていたので同情が出来ないのも事実だ。
正直、放って置いても構わないが、気付いてしまったからには仕方がない。
内心大きなため息を吐くと、エレノラは立ち上がりフラヴィの元へ行く。
彼女のカップを中を覗くとやはり虫が入っていた。
「フラヴィ様のお茶の方が美味しそうなので、私のものと交換して下さい」
「え……」
少し強引だったかも知れないが、他に言い訳が思いつかない。
フラヴィ達が呆気に取られている間に、エレノラはさっさとカップを交換して席に戻った。
「エレノラ嬢、お茶が冷めてしまっているだろうから新しく淹れよう」
するとすかさずアンセイムが声を掛けてきて、執事がカップを回収しようとしたので拒否をする。
「いえ、冷たいお茶も好きなので結構です。ミル」
そしてエレノラはスプーンで虫を掬い上げると「はい、あ〜ん」とミルに食べさせた。
以前は令嬢ばかりだったので、皆一様に悲鳴を上げて去って行ったが、流石に今日は大丈夫そうだ。ただ気不味い空気が漂ってはいるが、知った事ではない。
それにしても状況から察するに犯人はどう考えてもアンセイムだろうが、もしかしてこんな事の為にフラヴィをお茶会に呼んだのだろうか。
良い人だと思ったが、まさかこんな子供染みた嫌がらせをするとは思わなかった。少し残念だ。
そういえば以前、ロベルトがお茶に虫が入れられる事は良くある事だと話していたと思い出した。
それなら都会ではこういう習わしなのか? と眉根を寄せる。
やはり都会はど田舎貴族の自分には難解だとつくづく思った。
(それよりこれ、どうしようかしら……)
手元のカップを凝視する。
そこには無論、虫のエキス入りの冷めたお茶がある。
先程交換を拒否した手前飲まない訳にはいかないだろう。それになにより勿体ない!
(人生慎重さも大事だけど、時には勢いも必要よ! 私なら、いける!)
自らを奮い立たせ一気に飲み干そうとしたが、忽然と手からカップが消えた。そしてーー
「ユーリウス様⁉︎」
何故かそのカップはユーリウスが持っており、彼はお茶を一気に飲み干してしまった。
「失敬、余りにも喉が渇いていたんだ」
呆気に取られていると、そんな意味不明な言い訳をする。
何故なら彼のカップの中身はまだ半分くらいお茶が残されているからだ。
流石のエレノラでも分かる。
心底信じられないが、あのクズの代名詞みたいなユーリウスがエレノラの代わりに犠牲になってくれたのだ。
何か悪い物でも食べたんじゃ、いや今正に悪い物を飲み干したばかりだ……。
それよりも大丈夫なのだろうかと心配になる。
以前エレノラが落ちたパンを食べようとした時に、大袈裟な反応を見せていた事からして免疫はなさそうだ。後でお腹でも壊したら、エレノラに責任の追及をしてくるに違いない。
「それならご自分でお代わりをお願いして下さい」
「仕方がないだろう、我慢出来なかったんだ」
「うちの弟達でも我慢くらい出来ます」
バレていないと思っているらしく分かり易い子供みたいな言い訳を続けるユーリウスは、明らかに目が泳いでいた。
そんな様子に呆れながらもしょうもない人だと思わず笑ってしまった。