有能でイケメンクズな夫は今日も浮気に忙しい〜あら旦那様、もうお戻りですか?〜

六十一話〜芋に高級ドレス〜



 街に到着するとユーリウスに連れられとある店へと入った。
 外観からして超高級店だと直ぐに分かる。

「いらっしゃいませ、ユーリウス・ブロンダン様」

 直ぐに品のある女性店員が出迎えてくれた。
 するとユーリウスの隣にいたエレノラをまるで品定めでもするように頭のてっぺんからつま先までじっくりと眺めてくる。そして興味をなくしたように直ぐにユーリウスへと視線を戻した。

「本日はフラヴィ様はご一緒ではないのですね、残念です。実はフラヴィ様にお似合いになりそうな新作のドレスがございまして」

 店員は和かに説明を始めるが、何故か彼は咳払いをしてそれを遮った。

「ではその新作のドレスを見せてくれ」

「あの失礼ですが、まさかそちらのお連れ様がお召しになられるのですか? 実は今回の新作はデザインや生地のみならず糸や縫い方まで拘り抜いた自信作でして、品がありとても華やかな仕上がりになっております。ですので、お連れ様には少々荷が重いかと。宜しければ、もっとシンプルで落ち着いたドレスをご用意致します」

 まるで小馬鹿にしたような笑みを浮かべこちらを見る店員は、遠回しに似合わないからやめておくように言ってきた。
 まあ確かに高級ドレスなど似合わないと自分でも思う。無論、ユーリウスも「芋に高級ドレスなど無駄だ」と思っている事だろう。話の流れで見せて欲しいと言ったに違いない。だがーー

「責任者を呼べ」

 黙って聞いていたユーリウスは、不意に口を開くと低く冷たい声で言った。

「え、あの、それはどのような意味で……」

 急に怒りを露わにしたユーリウスの様子に当然店員は戸惑う。必死に彼の機嫌を取ろうヘラヘラと笑みを浮かべている。

「いや、やはりいい。そんな価値もないな。昔からこの店を贔屓にしていたが、金輪際私がこの店を訪れる事はない」

「お、お待ち下さい‼︎ 何故急にそのような事をーー」

「そういえば、紹介がまだだったな。彼女は私の妻だ」

 ユーリウスが言葉を被せるようにそう言った瞬間、店員の顔が見る見る青ざめていくのが分かった。

「あ、あの、違うのです、私はフラヴィ様の事を思い、その……ですから、決して奥様を……」

「エレノラ、行くぞ」

 入店からの一連の流れを見て、ユーリウスはこの店の馴染客でフラヴィと共にこの店を訪れていた事は明白だ。そしてこの店員はフラヴィと仲が良いのだろう。だからこそ、ユーリウスが別の女性を伴いやってきた事に腹を立て嫌味を言ったに違いない。まして自分でいうのも何だが、連れて来たのは芋娘だ。余計に腹が立ったのだろう、仕方がないと納得をする。
 そんな中、いつもなら同調しそうなユーリウスは何故かご立腹の様子だ。
 可哀想な程顔面蒼白になった店員を尻目に、エレノラ達は店を後にした。
 
「……」

「……」

 店を出た後、目的地があるのかは分からないがユーリウスは黙り込んだまま速足でひたすら歩いて行く。その顔は見るからに怒りに満ちていた。

「あのユーリウス様、どちらに」

「……すまない」

 すると彼は不意に足を止めて、ポツリと謝罪を口にしたので、訳がわからず小首を傾げる。

「何がですか?」

「あんな下らない店に連れて行った私が軽率だった」

 意外な言葉に眉を上げた。
 怒りの理由が不明だったが、どうやらエレノラが貶された事に対しての怒りだったらしい。そしてクズ男でも人の為に怒る事があるらしい。更にクズ男も謝る事があるのだと驚いた。
 それにしても、これまで散々芋やら芋娘やらと見下してきたのはユーリウス自身なのに理解不能だ。

「別に私は気にしていませんよ」

 あっけらかんと笑って見せる。だがユーリウスは更に眉間に皺を寄せた。

「君が気にしなくても、私は気にする。自分の妻が貶されたんだぞ⁉︎」

「ユーリウス様がそれを言うんですか」

 冷めた視線を送ると、彼はバツが悪そうに口を噤んだ。

「すまない……」

 しゅんとなり素直にまた謝罪をした。
 その姿にどこか病気なのでは? と真面目に思った。


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