有能でイケメンクズな夫は今日も浮気に忙しい〜あら旦那様、もうお戻りですか?〜
六話〜公爵家の金銭感覚〜
シュウシュウ〜!
「ほら、ダイヤモンドだよ〜」
エレノラが机に向かう後ろでミルと遊ぶロベルトの声が聞こえてくる。
あれから毎日のように部屋を訪ねてくるロベルトは、ミルをいたく気に入りミルの為に色んな物を持参してくる。
縫いぐるみや玩具、おやつ用のフルーツ、そして今日はまさかの宝石だった。
「ロベルト様。ミルにそんな高価な物を与えないで下さい!」
「でもさ、ミルは喜んでるよ。ほら、おねだりしてる」
どうやら初めて目にする光り物に興味津々のようだ。
もし傷でもつけたら大変だと振り返り注意をするが、彼はまるで意に介さない。
そんな中、ロベルトの手にしている大粒のダイヤモンドが視界に入り背筋が凍る。
「ミル! 人様におねだりしちゃダメよ! ただより怖いものはないんだからね⁉︎」
シュウぅ……。
見るからに落ち込むミルに罪悪感を感じるが躾は大事だ。ついでにお金も。
「それって経験談?」
「……違います、一般的な見解です」
本当は昔、父が「親切な人がくれたんだよ」とリンゴを山のように抱えて帰ってきた事があった。だがその夜、筋骨逞しい男性が数人屋敷に押し掛けてきた。そして彼等はリンゴが盗まれたと主張して大金を要求してきた。
屋敷の外観はおんぼろだが、一応伯爵家なので一応護衛はいる。その時は護衛の活躍により難を逃れたが、当時まだ幼かったエレノラは学んだ。ただより怖いものはない! と。
「それより毎日いらっしゃいますが、お仕事は宜しいんですか?」
「明日は行くよ」
「昨日もその前も同じ事を仰っていましたけど」
「あれ、そうだっけ?」
如何にも忘れたように首を傾げるが、惚けているのは分かっている。
ボニーから聞いた話では、ロベルトは現在騎士団に所属しているがサボり癖があるようだ。
「叱られますよ」
「だってさ、僕って騎士に向いてないんだよね。父さんに入団するように言われたから仕方なく入ったけど、つまらない、合わない、面倒くさい」
仕事が合わないと感じる事は仕方がない。きっと誰にでもあるだろう。だが、残りの二つはただの私情だ。
「それより、義姉さんさ、もっとお洒落しないの?」
「私は今着ている物で十分です」
クローゼットには華やかなドレスがそれなりの数が用意されているが、特に必要性を感じないので嫁ぐ際に持参してきた機能性を重視した動き易いシンプルな物を着用していた。だが、ロベルトは不満なのか口を尖らせている。
「えー、なんかそれだと地味っていうか、芋っぽい」
(流石、兄弟だわ……)
腹違いにしても余り似ていないと思っていたが、やはり兄弟だ。発想が同じで、失礼極まりない。
笑顔が引き攣るのを感じた。
「あ、そろそろデートの時間だから行かなくちゃ。じゃあまた来るね、義姉さん?」
壁時計を見れば、いつの間にか十七時を回っていた。するとロベルトは嬉々として部屋から出て行った。
ここ最近毎日同じ光景を見ている気がする。
思わずため息を吐く。
エレノラを手伝うと宣言したロベルトだったが、結局何もせずに遊んでいるだけだ。別に期待はしていなかったが、それなら何故毎日部屋にやってくるのだろうか。
暇つぶしなら、気も使うのでせめて頻度を下げて欲しい。
ただ義弟といえ年上であり、公爵家の子息なので断りづらい。何か断る口実が必要だと真剣に思う。
「ミル、これは没収よ」
シュウ⁉︎
結局ダイヤモンドを置いていってしまった。もしかしたら、本気でミルにくれるつもりかも知れないが、流石に受け取れない。
公爵家の金銭感覚が怖過ぎる。
「次にロベルト様がいらしたらお返ししないと」
シュウ……。
大粒ダイヤモンドに未だ抱きついているミルを引き剥がすと、ハンカチを取り出しダイヤモンドを丁寧に包んだ。
「何故、ロベルトが君の部屋から出てきたんだ」
そんな事を考えていると不意に扉が開いた。ロベルトが戻ってきたのかと身構えたが、何故かそこに立っていたのはユーリウスだった。