有能でイケメンクズな夫は今日も浮気に忙しい〜あら旦那様、もうお戻りですか?〜
八十二話〜三者面談〜
ブロンダン家の離れの応接間には、今、ユーリウスとエレノラ、面談の一人目である愛人が顔を揃えていた。
エレノラと愛人はソファーに向き合って座り、少し離れた後ろに一人ぽつんとユーリウスだけ椅子に座らされている。
一体何が起きているんだと呆気に取られる中、エレノラが口を開いた。
「先ずはフルネームでお名前をお答え下さい」
「ドーリス・オーブリーです」
「年齢とお父上の爵位をお願いします」
「二十五歳で、父は伯爵位を賜っております」
「では手紙で説明をさせて頂いた通り、進路希望をお伺いしますが、その前に最終意思確認をします。今回の件を私に一任されるという事で間違いありませんか? またご両親に承諾は得ておりますか?」
面接官さながらエレノラは淡々と質問と説明をし手元の書面に記入していく。
「……私は四人の兄姉がいて末の娘です。昔から両親からの関心はなく、忘れられた存在です。今回の事を伝えはしましたが、好きにしなさいと言われています。こんな状況ですので、ユーリウス様から手紙を頂いた時は正直途方に暮れてしまいました。ですが、エレノラ様からお手紙が届いて少し希望が持てたんです。厚顔無恥なのは承知の上ですが、エレノラ様にお任せしたいです」
その言葉にエレノラは暫し黙った。
こちらに背を向けているエレノラの表情は確認出来ないが、恐らく彼女の事だ同情して悲しそうな顔をしているに違いないと分かる。
だがユーリウスはドーリスの説明を聞いても特に何も思わなかった。その理由は別段珍しい話ではないからだ。
田舎貴族は知らないが、都会の貴族の家はどこもドーリスのような家が多い。
兄弟姉妹は親から選別され、嫡男や優秀な子供は優遇されるが、それ以外の子供は放置され時間やお金を掛けるのが無駄という傾向にある。
ある親は自尊心が高く優秀な子供以外は認めないといい、ある親は跡継ぎの嫡男以外には興味はなく、またある親は下級貴族故お金が余りなく優秀な子供に期待を込めて一人だけにお金を掛ける。そういった様々な理由があった。
「……分かりました。では質疑応答を続けます。私から提案させて頂く事は三つです。一つ目は嫁ぎ先を探す、二つ目は働き口を探す、三つ目は修道院を探す以上です。ドーリス様はこの先、どう生きていきたいですか?」
「私は結婚をしたいです」
「ドーリス様の年齢や状況を考えますと、結構な年上の男性や様々な理由で再婚されたい男性、またお相手に子供がいる場合もあるかと思います。正直、好条件は望めません。それでも結婚を希望しますか?」
「それでも結婚がしたいです。一度でいいので心から愛されてみたい……」
独り言のように呟く姿に、彼女もまた自分と同じなのだと思えて眉根を寄せた。
「では結婚相手の希望条件を伺いますが、初めにどうしてもこれだけは譲れない条件を教えて下さい」
「……誠実な方が、良いです」
かなり悩んだドーリスは、こちらを一瞥してからポツリとそう言った。なんとなく責められているように思えて居心地が悪い。
無意識に席を立とうとすると、その事に気付いたエレノラが振り返る事なく「逃げずに自分自身と向き合って下さい」と言った。
その言葉に歯を噛み締め拳を握る。
自分の情けなさに羞恥心が込み上げながらも椅子に座り直した。
「ーー分かりました、では質疑応答は以上です。お疲れ様でした。ご希望に添えるかは分かりませんが最善を尽くします」
面談が終わるとエレノラは立ち上がり頭を下げた。するとドーリスも躊躇いながらも頭を下げる。
「あの、エレノラ様……どうか宜しくお願い致します」
ドーリスはユーリウスを一瞥する事なく部屋を出て行った。
その後も面談は休む暇なく次々に行われた。
その間、ユーリウスはまるで置物と化して見ているしか出来ない。
(こんな顔をしていたんだな……)
入れ替わり立ち替わりやって来る愛人達の様子を見てボンヤリ思う。
何年も一緒にいたが、こうやって確りと顔を見る事はなかったかも知れない。いや見ていても全て同じようにしか見えていなかった。同じように微笑み同じような仕草をして同じように話す。だからこそ誰でも良かった。
必死に進路について話す愛人達の姿を見て、これまで自分は一体何をしてきたのだと自嘲した。