一匹オオカミ君と赤ずきんちゃん
◆大神優牙 : 不穏な噂話
今朝は無視されていたのだろうか。
ただの人見知りを発動していただけと願いたいが……。
とりあえず、一緒に帰れるか聞いてみるか。
意を決して声をかけようとしたが、愛原の姿が見当たらない。
クラスの女子に聞いてみると、担任に頼みごとをされて職員室に向かったとの事だった。
俺も手伝えば――とも思ったが、流石にワザとらしいか。
うーん。
頭を悩ませていると、不意に星崎が俺を呼ぶ。
席が近いからかなのか、やたらと声をかけて来る星崎。
他の奴なら適当にあしらっているが、こいつの場合は――、
「大神、今日から急いで帰らなくていいんだろ?」
「あぁ、そうだけど」
「だったら部活に入ったらどうだ? 一緒にサッカーやろうぜ」
なんとも人懐っこい笑顔で絡んでくるのだ。
無下に出来るはずが無く、ついつい相手をしてしまう。
サッカー部では既にイケメン新入生としてファンクラブが出来ているとかいないとか、クラスの女子が騒いでいたが、なるほど納得。
だがしかし、俺には青春などしている心の余裕はない。
「んー、めんどい」
「んな事言うなよ。そだ、見学に来い、きっと入部したくなるぞ」
「ならん」
「女子にモテるぞー」
「別にいい」
「強がんなって、ま、気が向いたらいつでも来いよ! じゃあな!」
星崎は男の俺をも惑わす爽やかスマイルで去って行った。
まぁ、興味はないが、愛原の手伝いとやらが終るまでならいいか。
放課後の校舎をのんびりと歩く。
時々、刺さるような視線を感じて溜息が出た。
結局、どこへ行っても同じか。
消沈しながらグラウンドに向かっていると、渡り廊下に宙を舞う大きな段ボールが現れる。
俺、疲れてるのか?
段ボールのお化けが見えるようになるとは……。
だが、目を凝らすと段ボールの向こうに真っ赤な尖がりが見えた。
愛原?
愛原は大きな段ボールを抱きしめ、のっそのっそと運んでいる。
手伝ってやるべきかと迷っていると、突然、段ボールが大きく揺れて地面に転げ落ちた。
バサバサと派手な音をたてて舞った紙の束が、風に運ばれ花壇の方まで飛んでいく。
「いってぇ、なんだよ」
男子の苛ついた声。
校舎の壁に反響して感情が増幅して聞こえる。
愛原は、通りかかった男子生徒二人とぶつかってしまったようだ。
「ご、ごめんなさい」
か細い声は辛うじて聞こえる程度。
二人の男子生徒は不満そうに愛原を見下ろしている。
「あんたさ、なんでそんな帽子かぶってんの?」
「え? あ、これは、その……傷があるから……」
震える手で帽子を押さえながら、必死に答える愛原。
その態度に男子生徒達は嘲るように笑った。
「へー、じゃあちょっと見せてよ」
「えっ! あの、それは――」
男子生徒に詰め寄られ、愛原は怯えながら一歩後ろに下がる。
あいつら、何をするつもりだ!?
気が付くと、俺は二人の間に割り込んでいた。
もちろん、何のプランも無い。
気の利いた言葉も浮かばない。
俺は仕方なく男子生徒を睨みつけた。
そして気付いた――。