一匹オオカミ君と赤ずきんちゃん
03.となりどうし
◇愛原 鈴 : 愉快な父親
やっぱり、来るんじゃなかった……。
私は今、途轍もない後悔に襲われている。
すっかり忘れていた。
ウチのお父さんは、
「そうかそうか、大神君と同じクラスだったのか。もしかして運命の出会いかもしれないぞぉ!」
陽気で愉快で豪快で、まったく空気を読まない賑やかな人だと言う事を……。
「お父さん、変な事言わないでよ!」
沢山の料理が並べられた食卓を前に、ケラケラと笑いながらネクタイを緩めるお父さん。
居間に響く元気な声に、大神君は困ったように笑っている。
「冗談だよ、冗談。それにしても、今日は随分豪華だね、ルミさん」
「そりゃそうよ、大事な娘婿と孫の為だもの。それに、新しい家族も増えたしね」
「――っ!?」
みっちゃんの言葉に、大神君は頬を紅潮させて黙り込んでしまった。
せっかく大神君との溝を埋められたと思ったのに、お父さんとみっちゃんのせいで居間に微妙な空気が流れる。
私も大神君も俯いていると、みっちゃんがカラフルな箸を配りはじめた。
「ほらほら、冷めちゃうから食べるわよ」
みっちゃんに急かされて、大神君は小さな声で頂きますと言いながら手を合わせる。ふと、小学校の給食の時間を思い出した。
いつからだろう、こんな大事な事をおろそかにし始めたのは……。
真似をして自分も手を合わせてみるものの、久しく行っていない行為に妙な羞恥心が芽生える。そんな小さな葛藤をする私の横で、お父さんはグビグビとお酒を飲み始めた。
「大神君が一番大人ね」
みっちゃんの呆れた声に、大神君の頬が再び赤く染まる。
大神君の意外な一面を目にして得した気分になっていると、
「ところで大神君。どうして地元の高校に行かなかったんだい?」
私が聞く事を躊躇していた疑問を、お父さんはあっさりと口にした。
大神君は少し考えた後、静かに話し始める。
「色々あって地元の高校に行けなくなったんです」
「それでこっちに? 通信制とかは考えなかったの? 最近はオンラインで従業を受けられるって聞くけど……」
「そうみたいですね。けど俺、絶対にサボる自信があるので、他人の目がある方が言いと思ったんです」
自信満々の大神君の言葉に、みっちゃんがクスクス笑った。
「確かに、いつも寝っころがってるわね」
「それは、この家の居心地が良いからです」
「あらあら、嬉しい事言っちゃって」
嘘か誠か、大神君に翻弄されるみっちゃんを横目に、お父さんは納得の首肯を繰り返す。
「なるほどね。けど、下宿先が見つかって良かったね。通学大変だったろ?」
「はい、本当に……。退学して働く事も考えたんですけど、入学金払ってくれた親にも悪いし、将来の事を考えると高校は出といたほうが良いと思って留まりました」
遠い目をする大神君。
これ以上は聞かない方がいいと思い、お父さんを注意しようとすると、
「良い子だねぇ、君はとっても良い子だねぇ……。おじさん、涙出て来たよ」
お父さんはホロホロと涙を流し始めた。