一匹オオカミ君と赤ずきんちゃん
04.まよいみち

◆大神優牙 : クラスメイトの暴走


下宿生活を始めて数日。
早起きが必要なくなったおかげで、学校で眠気を感じる事は無くなった。
けれど、俺は今日も机に突っ伏し寝たふりをしている。
クラスメイト達と適度な距離感を保つためだ。

それは、愛原も同じだった。
 
チャイムが鳴れば直ぐに本を取り出して読みふけ、自分の世界に閉じこもる。
誰かと話しこむ事も、連れ立ってどこかへ行く様子も無い。
他のクラスから誰かが訪ねてくる事も無かった。
おそらく、今日学校で挨拶以外の言葉を交わしたのは俺だけだろう。
ルミさんから頼まれた弁当を渡した時だ。
会話と言ってもお礼の言葉くらいだが、とても新鮮な気分だった。
 
ふと、愛原の父親の言葉を思い出す。
 
〝友達を作って欲しい〟
 
脳内で何度も反芻させてみるが、一向に現実味を帯びない言葉に愕然とした。
今の愛原では無理難題だ。
 
本人にその気がないのだから……。
 
そして俺も、友達を作る気は無い。
 
――けど、あの時のおじさんの目は真剣だった。
 
良い父親だ。
とても良くしてもらった。
出来る事なら力になりたい。

友達にはなれなくても、困った時に頼れる存在になる位なら、俺にも出来るかもしれない。

その為には愛原との仲を深めなければならないのだが、すでに四日も夕飯を共にしていると言うのに、趣味の一つも聞き出せていない俺にそんな事が出来るのだろうか。
愛原は日曜まで夕飯を食べに来るらしいが、俺は訳あって週末は実家へ帰る。

今日は金曜日。
 
愛原との夕飯は今日で最後だ。
何かしら距離を縮めるのだとしたら今日しかない。
けど、俺と愛原に共通の話題があるとは到底思えない。
 
これは、勉強よりも難題だな。
 
眠気が無くなった分、考え事が多くなった事を嘆いていると、
 
「ねぇ、苺香、星崎君に告白しなくていいの? 早くしないと取られちゃうよ」
「分かってるけど、星崎君って今まで告白してきた子、全員振ってるんでしょ?」
「苺香なら大丈夫だって! 美人だし、スタイルいいし」
「それはどうかな……」

女子のキラキラな台詞が耳に届く。
自分には全く関係の無い話だが、星崎の意外な一面を知ってしまい思わず耳をそばだてた。
 
苺香と呼ばれたクラスメイトは、西洋人形のようなルックスとスタイルの持ち主。
他人に興味のない俺でも、直ぐに顔を覚えたくらいにオーラのある人物だ。
そんな美女を悩ませるイケメン星崎。
 
罪な男だ。
 
普段なら聞き流すキラキラ女子トークだが、最近やたらと絡んでくる星崎の撃退法が見つかればと、息を潜めて話しの続きを待つ。

「もしかして、まだあの子の事を気にしてるの?」
「うん……」
「話した事無いって言ってたんでしょ? ありえないよ、あんな地味な子」

表情が歪んでいる事が分かる位に、怪訝そうな声を出す苺香の友人。
 
あの子?
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