一匹オオカミ君と赤ずきんちゃん
05.すれちがい

◆大神優牙 : 帽子の秘密


月曜日。
五限目の授業が終わると、上半身がズルズルと机に吸い込まれた。
 
あんなに探しても見つからないなんて、アイツはもう……。

土日、歩き過ぎたせいか異常に体がだるい。
なんの意味も無い二日間を過ごしてしまった事が、余計に疲労感を増やしていた。
ルミさんのタマゴサンドを食べても回復する気配はない。
それどころか、いつも以上に強い眠気に襲われた。
絶えられずにうとうとしていると、賑やかな女子の声が耳に届く。
 
あの日以降、愛原の周りに女子生徒が集まる事が増えた。
おそらく、俺との関係に興味があるだけの野次馬ばかりだと思うが、愛原にとっては人見知り克服の良いチャンスかもしれない。
 
そのおかげで、近づこうにも近づけない可愛そうな男が一人いるが……。
 
眺めた教室の片隅。
いつもの調子で山本が星崎をからかっていた。

「よかったな星崎。愛原にお友達が出来たみたいだぞ」
「お前にはあの状況が仲良しに見えるのか? どうかしてる」
「一人で寂しそうにしてるよりかは良いんじゃね?」
「それはそうかもしれないけど……」

星崎の不機嫌そうな声は尻すぼみになる。
その視線は愛原に向かっていた。
俺もこっそり愛原の姿を眺める。
確かに一人で寂しそうにするよりはいいだろうが、本人が一つも楽しそうでは無いのが気がかりだ。
 
まぁ、俺のせいなんだが……。
 
一人頭を悩ませていると、

「星崎君ってさ、やっぱり愛原さんの事が好きなのかな?」
 
綾瀬が星崎の様子を気にし始める。
周りの取り巻き達は一斉に身を屈め、クスクスと笑い出した。
 
またあいつ等か。
 
俺は静かに体を起こし、耳をそばだてる。

「絶対ないって、あんな暗い子が好きな訳ないでしょ。早く告白しなよ、苺香!」
「そうそう、あの子は大神とデキてるって話だし、大丈夫だよ」
「それは、あの子のお婆ちゃんの家に下宿してるってだけでしょ?」
「そうだけど、でも分かんないじゃん。大人しそうに見えて遊んでる子って多いし」
「まさか、そんな風には見えないけど……」
「いやいや、帽子脱いだら金髪だったなんて事、あるかもよー」
「あははは―」

女子達の高笑いが教室に渦巻いた。
確実に愛原にも聞こえる距離と声音。
嫌な感じだ。

何もなければいいが……。
 
星崎周辺の女子は要注意だな。
 
起きても居ない問題に頭を抱えながら、俺は再び机に突っ伏した。
いつも以上の疲労感で直ぐに瞼が重くなる。
考え事をするまもなく、夢の中へと落ちて行った。

★★★
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