一匹オオカミ君と赤ずきんちゃん
◇愛原 鈴 : 悲しき呪い
オレンジ色の光で目が覚めた。
いつの間に眠ってしまったのだろう。
慌てて体を起こすが、纏っている服を確認して絶望した。
昨日、公園から逃げるように帰って来た後、制服を着たままベッドに潜り込んだのだ。
朝日を見た事までは覚えてるんだけど……。
窓の外で流れる夕方を知らせるチャイムが、寝ぼけた頭に記憶を蘇らせる。
脳裏に大神君の驚く顔が浮かんだ。
よりによって一番見られたくない人に見られるなんて。
最悪だ。
仲良くなれると思ったのに……。
友達になれると思ったのに……。
重い体をベッドから引きずり出し、皺だらけの制服を脱ぎ捨てる。
姿見の前に立って帽子の無い頭に手を伸ばした。
これが本当の私の姿。
事故から数日後、突然現れた体の異変。
夢を見ているのだと思った。
こんな事が現実で起きるなんて……。
伸ばした手に触れる異様な感覚。
髪に紛れるように存在するソレは、人間の物では無い。
これは――。
獣の耳。
白、黒、茶色。
綺麗な三色。
毛色を見て直ぐに正体が分かった。
友達が飼っていた猫だと。
私が死なせてしまった猫だと。
忘れるなと言っているのだ。
警告か。
呪いか。
恨みか。
誰にも知られたくない。
誰にも見られたくない。
許される事の無い罪の印。
大神君はどう思っただろうか。
気味が悪いと思っただろうか。
誰かに、話しているだろうか……。
ううん、きっと大丈夫。
大神君は無愛想だけど、ご飯の前には手を合わせて感謝をするし、みっちゃんやお父さんに対しても礼儀正しい。
学校でも問題を起こしたことは無いし、喧嘩をしている姿を見た事もない。
何より、私を助けてくれた人だ。
そんな人が裏切る訳――。
裏切る?
違う。
そもそも私達は友達にもなっていない。
私が勝手に大神君に理想を抱いているだけだ。
期待してはいけない。
誰も信じてはいけない。
でも……。
鏡に映る自分の姿がぼんやりと滲んだ。
どうしてこんなに悲しいのだろう。
鏡の前でぼやける自分に問いかけていると、部屋の前に気配を感じて慌てて瞼を擦った。
「鈴、入っていい?」
心配そうなお母さんの声。
「うん……」
私は返事をしながら、誤魔化すように部屋着に着替え始める。
「あ、ごめん。着替えてたのね」
「大丈夫……」
「鈴、昨日から何も食べてないでしょ。ここ、置いておくから、お腹すいたら食べてね」
「ありがとう」
囁くように返事をすると、お母さんは何も聞かずに部屋を出て行った。
本当は気になって仕方ないはずなのに、私から話すのを待っているのだろう。
有難いような縋りたいような、もやもやとした感覚が胸を襲った。