一匹オオカミ君と赤ずきんちゃん
06.みちしるべ

◆大神優牙 : 友達の正体


おじさんと電話で話してから一週間、今日も愛原は姿を見せない。
賑やかな教室の中に浮かぶ空っぽの空間。
愛原の机だけが別世界のように感じた。

このまま退学なんて事になったら、俺の責任だよな……。

あまり活躍の場が無いスマホを取り出し、ルミさんに教えてもらった愛原の番号を眺める。
あれから一度もかけていない。
何度かおじさんにかけようとしたが、話す事がまとまらずに今に至っている。
 
どうしたら学校に来てくれるか頭を悩ませていると、

「起きてるなんて珍しいな、昨日はよく眠れたのか?」

爽やかな笑顔の星崎が俺を見下ろしていた。 
その姿に少しイラついた俺は、スマホごと机に倒れ込む。

「だったら良かったんだけどなー」
「なんだよ、眠れないのか?」
「まぁな」
「何か悩み事なら相談に乗るぞ? ま、大体見当はついてるけど」
 
原因が愛原だと気付いているのか、星崎の声は途轍もなく優しい。
相談したら的確なアドバイスをくれるだろうか。

「なぁ、星崎……」
「ん?」
「……やっぱいい」

相談って何をどう説明するんだ?
愛原の帽子の秘密を避けながら話すのは、想像するだけで骨が折れる。

自分で解決するしかないか……。

諦めて机と一体化していると、星崎が気合を入れるように俺の背中を叩いた。
 
「そーか、ま、俺に相談するまでも無く解決しそうだし、頑張れよ」
「どういう意味だ?」
「自分で確認しろ、じゃあな」
 
そう言い残し、星崎は男子達の群れに戻って行く。

確認って何の事だ?
寝不足のせいか頭が回らない。
気分転換に少し歩こうかと立ち上がったその時――、
 
「愛原さん、体調はもういいの?」

心配そうなクラスメイトの声が耳に届いた。
俺は弾かれたように声の主を探す。
辿り着いた先には、無理矢理な笑顔でクラスの女子と話す愛原がいた。

「う、うん、大丈夫。ありがとう」

たどたどしい口調。
可愛らしい声。
真っ赤な帽子。
 
間違いなく愛原だった。
嬉しさと安堵で今すぐ声をかけそうになったが、急に怖くなって思いとどまる。
電話ですら話したくないと思われているのに、まともに口をきいてくれるだろうか。
拒絶される事を想像して二の足を踏んでいると、不意に愛原と目が合った。
作り笑いが崩れて恐怖に変わって行く。
 
心臓が掴まれたように痛い。

ダメだ。

俺は暫く近寄らない方がいいかもしれない。
気分転換では無く、頭を冷やした方が良さそうだ。
 
溜息を吐きながらフラフラと廊下に向かう。
 
教室の片隅では、例の美少女と取り巻きが下品な笑顔を浮かべていた。
その視線は全て愛原に向かっている。
気付かれる事を望んでいるような、敵意が込められた目付きだ。

何食わぬ顔で通り過ぎながら、そっと聞き耳を立てる。
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