一匹オオカミ君と赤ずきんちゃん
◇愛原 鈴 : 踏み出す一歩
「それじゃあ、うちのクラスは喫茶店って事で決まりね」
クラス委員を務める天城さんが、黒板に書かれた喫茶店の文字に赤丸をつける。
いつもは静かな放課後の教室。
今日は学園祭に向けた話し合いで大いに賑わっていた。
そんな空気の中でも、大神君は興味なさそうに机に突っ伏している。
そして私も、話し合いそっちのけで胸の中のモヤモヤと格闘していた。
大神君と帽子の秘密について話し合ってから数日。
何事も無く平穏に時間が過ぎているけれど、毎朝教室に入るたびに妙な緊張感に襲われてしまうのは、大神君のあの提案のせいだ。
『本当の姿をみんなに認めてもらう』
――なんて、余りにも自信ありげに言う物だから、勢いで頷いてしまったけれど、臆病な私には出来る気がしない。
こんな非現実的な事、大神君以外に受け入れてくれる人はいるだろうか。
星崎君と天城さんなら大丈夫だって言ってたけど――。
授業中ではない事を良い事に、あれこれと考えながら教室を眺めていると、不意に星崎君と目が合ってしまった。
いや、星崎君だけではない。
クラスの彼方此方から注目が集まっている。
思わず帽子の有無を確認していると、
「――愛原さん、聞いてる?」
「えっ!? あ、はい」
教卓の前に立っていた天城さんが困ったように私の名前を呼んでいた。
「愛原さんはどんな喫茶店が面白いと思う?」
「え、えーっと、思いつかないです。ごめんなさい」
「そっかー、うーん、やっぱ定番のメイド喫茶かなー」
天城さんが首を傾げながらぼやくと、待っていたかのように、眠っていたはずの大神君が勢いよく立ち上がる。
「おはよ、大神」
星崎君がからかうように声をかけると、大神君は首を横に振った。
「ずっと起きてた。で、考えてた」
「何を?」
「学園祭の事」
「え……大神が!」
大神君の意外な発言に、星崎君は目を見開く。
確かに、いつもの大神君なら絶対にありえない行動だ。
どうしたんだろう。
静まり返る教室の中、大神君は静かに口を開く。
「猫耳メイドカフェ……」
え!?
大神君のイメージからは遠すぎる猫耳。
クラスメイト達は興味津々で大神君に注目する。
すると突然、
「みんな、目を閉じて」
大神君は教祖のような口ぶりで語り始めた。
星崎君は心配そうに大神君を見上げる。