一匹オオカミ君と赤ずきんちゃん
07.けものみち

◆大神優牙 : 嘘と真実


学園祭の話し合いから数日が過ぎたある日、放課後の教室は今までにない盛り上がりを見せていた。
女子生徒達のメイド服試着会が行われていたからだ。

恥ずかしがる女子と、その姿をスマホに納めようと鼻息を荒くする男子。
様々な思いが飛び交う中で、愛原はメイド服を手に居心地悪そうにしていた。

「愛原、これから衣装合わせ?」
「う、うん、そうだけど」
「あのさ、今がチャンスだと思うんだけど」

俺が小声で言うと、愛原は目を泳がせながら恍けた顔を作る。

「な、何の事?」
「猫耳の事」

少し語気を強めると、愛原はそっぽを向いて床を見つめた。

「……」
「もしかして、怒ってる?」
「え?」
「俺が、猫耳メイド喫茶を提案した事」
「怒ってはないけど、心の準備が……」
「少しの間だけでいいんだ。耐えられなくなったらコレ」
 
愛原の前にルミさんから預かった物を差し出す。
少し遠慮気味に受けとった愛原だったが、自分の手の中にある真っ赤な物の正体に気付くと、瞬く間に表情が和らいだ。

「猫耳付き帽子? これ、みっちゃんが作ってくれたの?」
「あぁ、俺が頼んでおいた。どうしても無理だと思ったら被っとけ」
「ありがとう、頑張るね。でも……」
「何か心配な事があるのか?」
 
怯えさせないように注意しながら問いかけると、愛原は再び床に視線を落とす。

「もし、私の猫耳が本物だってバレたらどうしよう……」
「それは――」

絶対にない。

なぜなら、それ以上の事がこれから起きるからだ。
愛原は耐えられるだろうか。
今更心配になってきたが、全ては愛原の為。
俺は無理矢理に笑って見せた。

「大丈夫、こんな童話みたいな事、現実に起きてるなんて誰も思わないだろ」
「それは、そうだけど……」
「絶対大丈夫だから、俺の事を信じて」

そう口にした瞬間、罪悪感が込み上げる。
自己嫌悪で吐きそうになりながらも、表情だけは笑顔を貫いた。

「――分かった」

愛原が力強く頷く。
覚悟を決めてくれたようだ。
もう、笑顔を維持できる気がしない。

「愛原さーん、順番だよ―」

タイミングよく天城の声が降って来た。
俺は自分の表情を誤魔化しながら愛原の背中を軽く押す。

「ほら、呼んでる」
「うん、行って来るね……」
 
のろのろと着替えに向かう愛原を確認すると、俺は急いで星崎の所に向かった。

「星崎、ちょっといいか?」
「ん?」
「今、愛原が衣装合わせしてるんだけど」
「お、おう」

学園祭の小道具を作っていた星崎は、愛原の名前を出した途端に動揺を見せる。
愛原本人か、それとも猫耳メイドか、どちらに反応したのか問いただしたい衝動を抑え込み、俺は星崎にある物を渡した。
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