一匹オオカミ君と赤ずきんちゃん
09.まちあわせ
◆大神優牙 : はじめてのお誘い
学園祭から一ヵ月。
教室は日常に戻り、クラスメイト達は近づくクリスマスに浮足立っていた。
そんな中でも俺は机に突っ伏し、いつも通りの昼休みを過ごしている。
いや、過ごせていると言った方が良いだろうか。
俺はてっきり「猫殺し」の話が学校中に広まり、過去を暴かれ、暗黒の高校生活を送る物だと思っていた。だが、実際にそんな事は起こらず、クラスメイト達は毎朝笑顔で迎えてくれている。
それは何故なのか、愛原の話によると、俺は他校の不良生徒を追い払った凄い一年として噂になっているらしい。
つまりは英雄扱いだそうだ。
アイツを招いたのも俺なんだがな……。
正直な所、噂の出所は星崎なのではないかと思っている
わざわざ確認はしないが、星崎の性格からしてありえなくはない。
友達も多いし人望もあるし……。
ふと顔を上げると、教室の片隅で星崎と愛原が楽しそうに話をしている姿が見えた。
随分と仲良くなった様子で、あの山本も穏やかに二人を見守っている。
お役御免かな。
おじさんからの喜びのメッセージが来るのも遠くなさそうだ。
ただ、気がかりなことが一つ――。
静かに教室を見渡す。
思った通り、星崎ファンの連中が小言を吐きながら愛原を睨んでいた。
何もなければいいが、もしも二人が傷つくような事があれば、俺は――。
誰にも聞こえない誓いをし、勝手に二人のボディーガードをしていると、
「大神君、ちょっといいかな?」
女子の声で呼ばれ顔を上げる。
そこには天城が立っていた。
学園祭以降、愛原と共に行動する事が多くなったクラス委員の女子。
俺にも臆することなく話しかけて来る変わった女子だ。
俺に用なんて……。
クラス委員=優等生=先生の代弁者――つまり。
「俺、何か怒られるような事した?」
怯えながら問いかけると、天城は首を傾げた。
「さぁ、何もしてないと思うけど、身に覚えでもあるの?」
「……ない」
「それは良かった。あのね、ちょーっとだけ聞きたい事があるんだけど」
天城は含み笑いで俺にお伺いを立てる。
「……何?」
「クリスマスの日、皆で動物園に行くことになって、大神君もどーかなーっと」
「はい?」
思考停止って本当にするんだな。
まさか俺が女子からお誘いを受ける日が来るとは……。
呆然としていると、天城は慌てた様子で俺の顔を覗き込んだ。
「あー、お金の事は心配しないで、クリスマス限定の入場チケット手に入れたから」
「いや、そういう事じゃなくて――あのさ、皆って?」
「え? えーっと、愛原さんと星崎君と私と、後、クラスの子何人か」
天城は教室の彼方此方を指さしながら、ニコニコと答える。
「そのメンバーに何で俺が?」
「何でって、愛原さんと星崎君と仲良いし、人数は多い方が楽しいでしょ?」
天城の同意を求める瞳が煌めいた。
確かに、愛原と星崎がいるなら楽しく過ごせるだろう。
けれど今、俺が二人に出来る事は一緒に楽しく遊ぶ事じゃない。
俺がいない方が二人の距離は縮まるし、それに何より、俺には最優先でやらなければいけない事がある。
「悪い、俺、予定があって」
「そっかー、残念、また今度誘うね。次は大神君の予定に合わせるから」
しょんぼりと去って行く天城の背中を見つめていると、とある疑問が浮かんだ。
まさか、天城って……。