一匹オオカミ君と赤ずきんちゃん
02.あゆみより

◇愛原 鈴 : 憂鬱な日常


最悪だ。

ただでさえ憂鬱(ゆううつ)な高校生活だというのに、大神君と同じクラスなんて……。
せめて違うクラスだったら良かったのに。
あんなに睨まれるとは思わなかった。

鬱々(うつうつ)とした気分で教室に入ると、クラスの女子数人が挨拶をくれる。
私が控え目に返事をすると、彼女たちは満足そうにどこかへ行ってしまった。
誰も、夏休みどんな風に過ごしたかなんて聞いてこない。
聞かれたところで答えられるような事も無いのだけれど、少しだけ期待していた自分が恥ずかしい。
久々に教室の雰囲気に触れ、朝から疲れてしまった私は静かに着席した。

はぁ……今からこんなんじゃ、夜までもちそうもない。
どうにかみっちゃんの家に行かない方法は無いものか。

机と睨めっこしながら頭を悩ませていると、

「おはよ」

背後から眠そうな男子の声が届いた。
この声は紛れも無く大神君。
 
もしかして私に言っているの?
いやいや、昨日あんなに睨んでたし、今まで挨拶なんてしてくれた事無かったし、そもそも廊下側のドアの近くなんて、おはようスポットなんだから誰に言ってるのか分からないし……。

けど、もしも私に言っているのだとしたら――。

ど、どうしよう……。
 
おはようと言って振り返ればいいだけなのに、体が動かない。
私に言ったんじゃなかったら恥ずかしいし、私に言ってるんだとしてもタイミング的にもう遅い。

あぁ、もうやだ、消えたい。

「愛原? 体調悪いのか?」

やっぱり私だった!!
あぁ、無視しちゃった。
最低だ、私。
何か、何か言わなくちゃ!
 
深呼吸をして思い切り振り返る。

「ご、ごめん。ボーっとしてた。体調は問題ありません。お、おはよう」

ぜ、全部言えた!

「そう、ならよかった。あのさ、ルミさんから伝言があって」
「伝言?」
「夕飯の準備を手伝ってくれって」

あー、先を越された。
みっちゃんは、私が押しに弱くて断れない性格なの知ってるんだった……。

「分かった……ありがとう」

そう言って話を終わらせようとするが、大神君は何か言いたげに佇んでいる。
 
めっちゃ睨まれてる……。
えー、な、何? 私何かした?

「あのさ、俺に気を遣わなくていいから」
「え?」
「俺がいると来づらいかと思って」

図星を突かれて心臓が跳ねる。

「あ、いや、別にそんな事は……」
「とりあえず、今日は来てほしい」
「……う、うん」
「そうか、良かった」

大神君は笑顔を浮かべて去って行った。

笑った顔、初めて見たかも。
 
大神君も昨日の事を気にしていたのかな。
最悪だったよね、私の態度。
私が大神君の立場だったら、ぜったい逃げられたって思うもん。
悪い事しちゃったな……。
 
謝らないと――。
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