一匹オオカミ君と赤ずきんちゃん
◇愛原 鈴 : 赤ずきんちゃん
クリスマス当日。
隣街の動物園に行く為に最寄り駅に向かう。
雪こそ降っていないものの、そよぐ風は頬を刺すような冷たさだ。
そんな寒空の下、スマホ片手に私を待っていたのは、
「おはよう。愛原さんは赤が似合うね」
暖かそうな白いダウンを纏った星崎君だ。
「あ、ありがとう。赤いコート、派手じゃないかな?」
「ううん、全然。かわいいよ」
「そ、そう。よかった。家族には赤ずきんちゃんみたいって言われちゃって……」
「あぁ、確かに――隣に黒ずくめのオオカミさんが居るから尚更だよね」
笑顔を無くした星崎君は、苛立つような声で私の隣を睨む。
「おはよ、愛しき我が友よ」
大神君は気にするそぶりも無く、無表情で友人への愛を口にした。
星崎君は溜息を吐く。
「予定があるんじゃなかったのか?」
「俺の予定も隣街なんだよ」
「それなら俺にも連絡欲しかったな」
星崎君は眉間に深いシワを作り、大神君を見つめた。
「うーん、サプライズ? 星崎の喜ぶ顔が見たくて」
「そう思うなら一緒に動物園に来ればいいだろ?」
急に寂しげな表情を見せる星崎君に、大神君も勢いを無くす。
「悪い、今日はごめん」
本当に申し訳なさそうな姿に心が揺れた。
行方不明の猫を一人で探すなんて、なんて途方もない事なのだろう。
本当は動物園よりも――、
「大神君、やっぱり私にも手伝わせて」
「いや、これだけは自分で何とかしたい。それに、愛原にもやる事があるだろ?」
大神君は私の頭を優しく撫でる。
そうだった。
私には帽子を卒業するという目標があるんだった。
「そうだったね。ごめん」
「いや、俺の方こそ悪かった。強引な事して……」
「ううん、大神君は悪くないよ。ただちょっと、もう少し時間が欲しいだけ」
「あぁ、愛原のペースで頑張ればいい」
「うん」
無意識に笑みが浮かんだ。
やっと消えた小さなわだかまり。
それなのに、一緒に遊べないなんて……。
高校生でいられる間に叶うだろうか。
途方もない未来に思いを馳せていると、
「なんか疎外感……」
星崎君の呟きがこぼれ落ちた。
大神君の表情が意気揚々と輝き出す。
「心配するな、電車の中でちゃんと相手してやるから」
大神君は逃げるように言い放ち、駅舎の中へと向かって行った。
その後をついて行く星崎君の足取りがとても軽い。
いつの間にか二人は友達から親友へと変わっていたようだ。
「愛原さん、電車来ちゃうよ」
「う、うん」
なんだか二人が羨ましい。
親友……。
胸の奥でもう一人の自分が囁いた。
私にも出来るだろうか。
小さな期待を抱きながら、二人の背中を追った。
☆☆☆