一匹オオカミ君と赤ずきんちゃん

◆大神優牙 : 架け橋


「あんたねぇ、なんでクリスマスに実家でまったり昼ごはん食べてるのよ」

リビングで一人、スマホを眺めながらタマゴサンドを頬張っていると、スウェット姿の母親が不機嫌そうに現れた。

「離れて暮らす息子の顔が見られて嬉しくないのか?」
「六日前に見たばっかりよ」
「六日も離れて寂しくなかったのか?」
 
疑問をぶつけながら、タマゴサンドを一つ手渡す。

「まぁ、寂しくない訳じゃ――んっ! 何このタマゴサンド! うまっ! これ、ルミさんが作ったんでしょ!?」

気だるげだった瞳が乙女のように煌めいた。

「正解。ほら、帰ってきて良かっただろ?」
「まーね―」

ホクホク笑顔でタマゴサンドを平らげた母親は、部屋の片隅からメイクボックスを運んでくると、俺の目の前にどっかりと座る。

「今日も仕事? ――に、決まってるよな、クリスマスだし」
「当然! 稼げる時に稼いでおかないとね~」
「あんまり無理するなよ」
「大丈夫、可愛い息子と引き換えに、自由な時間を手に入れたから――なんてね」

ペロッと舌を出し、微笑む母親。
元気そうにしているが、日に日に痩せて来ているような気がする。俺がいないせいで、食生活が適当になっているのかもしれない。

「俺、冬休みの間はこっちで過ごすから」

猫探しの為なのもあるが、長い間母親を一人にしたくなかったからだ。だが、その思いが伝わっている様子は全く無い。

「はぁ? なんでよ! 冬休みなんだから存分に遊びなさい。出来たんでしょ、友達?」
「う、うん、まぁ……」
「どんな子? ルミさんにイケメンって聞いたけど!」

前のめりの母親に気圧されて、慌ててスマホのフォトフォルダを漁る。

「た、確かスマホに写真が――ん?」
「何? どしたの?」
「いや、ちょうどそのイケメンから電話が来た」

そう言ってスマホをタップした。
すると、

『大神、大変だ!』

スピーカーでもないのに、星崎の声が部屋中に響き渡った。
驚いた母親の手から、ヘアブラシがぽろりと落ちる。

「どーした? 振られたのか?」
『……』
「ごめん、マジでふら――」
『ま、まだ振られて無い!』
「まだって、振られる気なのか?」
『逃げたって事はそういう事だろ?』
「逃げた?」
『あぁ、俺が飲み物買に行ってる間に居なくなった』
「電話は?」
『それが、まだ連絡先聞いて無くて』
「……嘘だろ」
『嘘じゃないんだな、これが』
「天城はどうした?」
『天城さん達とは別行動中で、たぶん空の上だから連絡は無理』
「は?」
『とにかく、頼れるのは大神しかいないんだよ』
「分かった。番号を教えるから――」
『いや、それはいい』
「どうして?」
『自分で聞きたいから』
「んじゃ、連絡取ってみるから星崎はどこかで待っててくれ」
『頼む……』
「泣くな、星崎」
『泣いてない! けど、泣きたいよ、マジで。後で胸を貸してくれ』
「正式に振られたらな」
『傷を(えぐ)るな!』
「はは、悪い悪い。じゃあな、美味い物でも食って待ってろ」
 
適当にフォローして通話を終えると、母親が興味津々で俺を見つめていた。
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