一匹オオカミ君と赤ずきんちゃん
11.こうさてん

◇愛原 鈴 : 再構築


「ここまで来れば大丈夫よね。ちょっと休もうか」

息を整えた陽華ちゃんは、住宅街にポツンと現れた小さな公園に向かって歩き出す。寒さのせいなのか人の気配が全く無く、北風に枯葉が躍っているだけの寂しい公園。

私は陽華ちゃんの後を追いながら、背後を確認した。

「獅童君、大丈夫かな……」

たとえ相手が悪い人だとしても、怪我をさせたとなれば陽華ちゃんの立場も悪くなってしまう。いつまでも追いかけられるのは困るけど、せめて安否だけは――なんて、心配する私を余所に、陽華ちゃんはケラケラと笑いながら錆びついたブランコに座る。

「大丈夫大丈夫、私、本気出して無いから」
「よ、陽華ちゃんの本気って?」
「あー、そっか、鈴、知らないのか」
「――?」

不思議そうにする私を横目に、陽華ちゃんはブランコを力強く漕ぎ出した。

「私ね、鈴が転校したあと、ボクシング習い始めたんだ。直ぐに辞めちゃったけどね」
「ボクシング……」

普通はここで驚くのだろうけど、リングに立つ陽華ちゃんの姿が容易に想像出来て笑みがこぼれる。

「びっくりした?」
「う、うん――でも、どうして辞めちゃったの? 陽華ちゃんなら金メダル取れると思うよ」
「でしょ!? 私もそう思って始めたんだけどさ、男の子と喧嘩するとついつい手が出ちゃって」
「へ、へぇ……それは良くないね」

ますます獅童君の事が心配になって来た。

「――で、近所でも有名になっちゃって、好きだった男の子にも避けられるようになってさ、親と相談してちょっと離れた所の高校に進学する事にしたの」
「それでこの街に?」
「そ、叔母さん夫婦が住んでるの。高校卒業まで下宿生活」
「そうだったんだ……」
「鈴は隣街に住んでるんでしょ?」
「どうして知ってるの?」

私の問いに、陽華ちゃんは砂地に足をめり込ませてブランコを急停止させる。

「――ルミさんに聞いてたから」
 
ポツリと呟かれた言葉。
理解するまでに数秒ほど空費した。

「――っ! みっちゃんと知り合いなの!?」
「うん、派遣のバイトで何度か一緒になった事があって」

みっちゃんの交友関係て一体……。

「でも、みっちゃんは一言も……」
「私が言わないでって頼んだの。鈴が気に病むかと思って」
「それは……」

否定できない。
実際、逃げてしまったのだから。
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