一匹オオカミ君と赤ずきんちゃん
12.わかれみち
◆大神優牙 : はじめての感情
「雪、降りそうだね」
曇り始めた空を見上げながら、弾むような声を出す愛原。
膨らんだコートのポケットから、赤い帽子がはみ出している。
「寒くないのか?」
「うん、大丈夫」
「雪、降って来たらちゃんとかぶれよ」
そう言って動物を愛でるように頭を撫でると、愛原は満面の笑みを浮かべて頷いた。
いつも会話の中に垣間見えていた、遠慮や緊張感はどこにもない。
「そういえばさ、獅童君の連絡先、聞かなかったの?」
「あぁ、聞かなくてもまた会いそうな気がしたから」
「確かに、陽華ちゃんの家に行ったら会いそうだね」
「愛原は?」
「ん?」
恍けているのか忘れているのか、何の事かと首を傾げる愛原。
待ちぼうけを喰らっている友人が途轍もなく不憫になった。
「まさか、星崎と連絡先の交換をしてないとは思わなかったよ」
「あ……えーっと、聞かれなかったから」
なんの戸惑いもないあっさりとした声。
鈍感と言うか、何というか……。
「今までどうしてたんだ? 今日の待ち合わせの事とか」
「それは、天城さん経由で……」
「なるほどね」
天城なら鼻息荒めで張り切ってただろうな。
容易に想像出来てしまい、不意に笑ってしまう。
「大神君、なんか楽しそう」
「そうか? ――いや、そうかもな。愛原のおかげだな」
「私?」
「愛原と仲良くならなかったら、凪の気持ちを知る事も無かったし、星崎と友達になる事もなかっただろうからな。それに、学校に行くのが楽しみになった」
「でも、星崎君とは春頃から仲良くしてたよね?」
「いや、サッカー部にしつこく誘われてただけだよ。仲良くなったのは愛原の存在があったからだ。詳しく聞きたい?」
ニヤニヤしながら問いかけると、愛原は恥ずかしそうにうつむいた。
「い、いえ、結構です」
「ま、あとは本人とじっくり話してくれ、泣きそうな顔してこっち見てるから」
「え?」
顔を上げた愛原の表情が困惑に満ちて行く。
灯が点り始めた駅舎を背に、星崎は待っていた。
寒そうに手を揉む星崎。
追い討ちを掛けるようにパラパラと雪が降り始める。
「ほら、早く行ってやれ」
「うん、今日はありがとう」
愛原は俺との約束通り、赤い帽子を目深にかぶると、星崎の元へと駆けて行った。
「がんばれよ」