宗主国の皇女は、属国で幸せを見つける

帝国の敗戦と王妃追放の声

新年の祝賀行事も一段落し、
やがて冬が明けて春が来た。

春の訪れとともに、
アルドレインが誇る豊かな港に
ドラゴニア帝国の巨大な軍艦が
やって来た。

軍艦を率いるのはマルヴァリス皇太子。
選民思想が強烈で
周囲の者を徹底的に見下し、顎で使うため、
帝国内はおろか属国からの評判も最悪な男。
今回もなんの連絡もなく突然やって来て 
軍艦を港に停泊させたあげく、
食糧や武器を融通しろと
無茶苦茶な要求をしてきたようだ。
そのせいで
朝からオルランドやレナートは対応に追われている。
王太后をはじめとする貴族たちからは
非難の目を向けられ、
フィロメナは肩身が狭い。

マルヴァリス皇太子は
この大陸の北の果てにあるという未知の国、
フィオルガルデ連邦を手に入れるべく
戦争を起こすらしい。

フィオルガルデ連邦。
フィロメナは名前しか聞いたことがないが
そこには妖精や魔法使い、ドラゴンなど、
物語でしか見たことのない不思議なものたちが
今も生きているのだという。
彼らたちがそこで静かに平和に暮らしているなら、
絶対にマルヴァリスの手に下るべきではない。
マルヴァリスは彼らを虐げるに決まっている。
(どうか彼の手に屈しないで。)
フィロメナは北の方に向かってそう祈った。
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