■□ 死 角 □■
沙耶香の本音
■沙耶香の本音
次の日、沙耶ちゃんと駅前のカフェで会うことになっていた。鈴原さんは待ち合わせの時間より少し早めに私のアパートまで迎えにきてくれて、一緒にその場に向かうことにした。
だけれど昨日のこともあってか、私は少しだけ鈴原さんと距離を離して歩いた。どこで陽菜紀が見ているか分からない。陽菜紀は「鈴原くんに近づかないで」と言った。あれは陽菜紀が鈴原さんを好きだから私にそう牽制したのだろう。一緒に歩く分には大丈夫だ、だって私に鈴原さんとどうこうなろうと野心はない。
しかし、こうやってみると街中には四角いもので溢れている。
「寝不足ですか…?顔色が悪いですけれど」と指摘されて私は曖昧にごまかした。
「ちょっと深夜ドラマ見てたら最後まで見ちゃって」
本当は深夜にドラマがやっているのかどうか分からなかったし、タイトルや内容を聞かれたら困ったが、でも鈴原さんは「そうですか」とそれ以上は聞いてこなかった。そのことに安堵しつつも、それ以降会話は途切れて、キマヅイ沈黙の中、駅まで向かった。
沙耶ちゃんと待ち合わせをするカフェに入ると、奥の喫煙席ですでに到着していた沙耶ちゃんが手を振っていた。
「ごめん、遅くなって」
「ううん、私も今来たところ。灯理ちゃんは昔から時間ぴったりだよね。陽菜紀はルーズだったけど」と沙耶ちゃんは苦笑いを浮かべる。沙耶ちゃんは私の後ろにくっついてきた形になった鈴原さんを見ると
「あら」と声を挙げ「確か……陽菜紀の告別式で―――」
「鈴原です。先日はどうも」と鈴原さんが人懐っこく挨拶し
「な、何か成り行きでね!今、二人で色々調べてるの。鈴原さん頼りがいがあって」と必死に言い訳をする私はさぞ見苦しいだろう。けれど沙耶ちゃんは微笑ましい何かを見るような目つきで、私たち二人に向かいの席に座るよう促し、セルフサービス式のカフェのようで鈴原さんが飲み物を買いに行った。
「灯理ちゃんの彼氏になったの?かっこいいね」とカウンターに向かう鈴原さんを見て沙耶ちゃんがコソっと耳打ち。鈴原さんには聞こえてないだろうけど、私は顏が真っ赤になるのが分かった。
「違っ!そんなんじゃないから」と慌てて否定。
それと同時にきょろきょろ周りを見渡すと、四角いものと言えば額縁に掛かった誰かの前衛的なイラストだけで、鏡は壁に掛かってない。そのことにちょっとほっとした。