■□ 死 角 □■
プリンセスの悲劇

■プリンセスの悲劇


ひそひそ話をしていたら、鈴原さんがガラス戸を開けて入ってくるのが分かり、私たちは慌てて体を戻した。何でもない世間話をする素振りで笑いあっていると鈴原さんが戻ってきた。その顔色はあまりすぐれないものだった。

「お電話…大丈夫ですか?何かトラブルでも?」
と聞くと

「いえ。元居た家を売り払って、取り壊すことになったから、立ち会ってくれって言われまして。母はこのところ体が弱ってましてずっと病院に入院しているので、俺が」

「そう……なんですか。大変なときにこんなことに巻き込んでしまってごめんなさい」
「いえいえ!実家の件はそれ程でも」と鈴原さんが慌てて手を振り

「ご出身はどちら?」と沙耶ちゃんがさりげなく鈴原さんに聞いて
「北海道です」と鈴原さんが答えた。
「遠いですね。お母様もそちらに?」と沙耶ちゃんが再び聞き、

「いえ。俺の仕事もこっちなので何かと世話しやすいので、この近くに」鈴原さんはそう言ってホットコーヒーの入ったカップに口を付けた。沙耶ちゃんが私の向かい側で鈴原さんに気づかれない程度で、彼の方を顎でしゃくる。

なるほど、何気ない会話で陽菜紀との関係を探ろうとしているのだ。

そう言えば私、鈴原さんのことほとんどと言って知らなかった。

結局、その後の会話で分かったのは鈴原さんのご家族はお母様が一人と鈴原さんと言う母子家庭のようで、お父さんとは鈴原さんが中学に上がる際に離婚した、と言うこと。

その後はお母さんに育てられたわけだけど、鈴原さんが成人するまでお母さんは新しい男性と三度結婚、離婚を繰り返したと言う。さすがに五度目、と言うわけには行かずお母さんも慎重になりつつあるから、最後のお父さんと離婚して今は独身だと言う。
そしてそれを機に鈴原さんは一人暮らしをはじめたようだ。

鈴原さんは以前、各地を転々としていた、と言っていたが本当のお父さんの転勤ではなく、こうゆう理由があったのだ。
< 115 / 217 >

この作品をシェア

pagetop