■□ 死 角 □■
麻美の裏側
■麻美の裏側
「鬱陶しいなんてとんでもない。ただ……毎日毎日悪いな、って思ってまして。鈴原さんのプライベートをほぼ台無しにしてしまってるので」と慌てて言い訳を取り繕う。その言い訳をあっさり信じた鈴原さんは「そんなこと気にしてくれたんですか。大丈夫ですよ」と笑った。
その笑顔に裏なんて微塵も感じられなかった。
やっぱり……鈴原さんは事件とは無関係よ……ただ、親切で私の心配してくれてるだけよ、とさえ思った。そのときだった。曽田刑事さんから電話があったのだ。
『中瀬さん?曽田です』
「……ええ。こんばんは。どうしたんですか…?もしかして沙耶ちゃんの容体に急変が?」心臓の辺りに嫌な衝撃が走って思わず胸ら辺を押さえる。ここ数日間沙耶ちゃんの病院には頻繁に顔を出した。毎回変わり映えのしない容態で良くも悪くもなかった。
『いえ。荒井 沙耶香さんの転落事件ですが』
曽田刑事さんは“事件”と言い切った。その単語に妙な引っかかりを覚える。
『実は、先ほど
鳥谷 麻美が、荒井 沙耶香さんの殺人未遂容疑で
逮捕されました』
え――――……!麻美ちゃんが………!?
「……どうゆう……ことですか…!?あの……麻美ちゃんが沙耶ちゃんを突き飛ばした…と?」
私の隣で会話を聞いていたのだろう、鈴原さんも驚いたように目を開いて足を止める。
『ええ。目撃者探しに苦労しましたが、間違いなく鳥谷 麻美です。目撃者は所謂前科者ってヤツでまた警察と関わると厄介なことになると思ってなかなか名乗り出られなかったみたいですけどね、まぁスリの前科者なので軽犯罪には変わりないですが。
鳥谷本人のアリバイもなく、また鳥谷自身も罪を認めています』
そんな―――……
何で―――……
私のスマホを握った手からゆっくりと力が抜けていく。思わずスマホを取り落としそうになって、その手を慌てて鈴原さんが支えてくれた。動揺が隠せない。手に一向に力が入らなかった。鈴原さんがちょっと戸惑ったのち、私からスマホを取りあげ、刑事さんとの電話を変わってくれた。
「鈴原です。ちょっと事情がありまして灯理さんと居るんですが。――――……え?病院に…?分かりました。すぐ向かいます。灯理さんも一緒に……」と答えて通話を終えると
「刑事さんが話があるそうです。沙耶香さんの眠っている病院まで来てほしいと」
鈴原さんの言葉に私は頷くしかできなかった。