■□ 死 角 □■
たった二人の同窓会

■たった二人の同窓会

面会時間を過ぎた病院はひっそりと鎮まりかえっていた。夜も11時を過ぎている。消灯時間をとっくに迎えた廊下はしんとしていて物音一つない。

私がここに入れたのは、救急患者を装ったから。電話をくれた看護士さんに「窺う」旨を伝えたが、私は真正面から行くつもりなんてさらさらなかった。
アレルギー体質で蕁麻疹が酷いと訴えると救急外来に通された。問診票を手渡され、医師との確認の為看護士が立ち去った際、私は救急外来受付の事務員に「お手洗いに行きたい」と言い訳して、沙耶ちゃんの入院している病棟まで入り込むことができた。

後から刑事さんが調べたら防犯カメラに私の姿がバッチリ映っているだろう。それでも構わない。後からどんな御咎めが待っていようと、今は沙耶ちゃんの無事だけが心配だ。

沙耶ちゃんは一般病棟に運ばれていて、病室の番号も知っている。見回りの看護士の目をすり抜けて病室にたどり着くのに結構な時間を要した。それでも何とか病室にたどり着くと、沙耶ちゃんは酸素吸入器をつけたままだが、バイタルモニタなどの異変はなく、目を閉じて眠っいた。

無事、とは言い難い状況だが、とりあえず“間に合った”みたいだ。沙耶ちゃんの病室は個室で、沙耶ちゃんが眠っているベッドが一つとその周りに薄いカーテンが引けるようになっていて、その他はベッドの脇に小さなテーブルともデスクとも呼べる机があり、その向こう側に少し小さ目のソファが置いてあった。私はカーテンを引き、ソファの影に身を潜め

待ち人を待った。

渇いた靴音が遠くから聞こえてきたのは、そこから20分後のことだった。息を押し殺し、持ってきた包丁の柄を握りながら、私はカーテン越しにその人物がやってくるのをじっと待った。

やがて私の想像する通り、その人物は病室の引き戸をゆっくり開け、中に入ってくる。照明を落とした病室の中、スマホの懐中電灯アプリで光を当て、その光がぐるりと室内をゆっくりと回った。私は身を縮め、その光から避けるように頭を屈めてその動作をやり過ごす。

やがてその人物は、ここがその人物にとって“安全”だと踏んだのか、沙耶ちゃんの眠るベッドに近づいてきた。細身のシルエットがカーテンに映しだされ私はごくりと息を呑んだ。

その人物はバイタルモニタを確認すると、スーツの中から何かを取り出す動作をした。

私は意を決して、ゆっくりとカーテンを開けた。
< 162 / 217 >

この作品をシェア

pagetop