■□ 死 角 □■
愛の喪失
■愛の喪失
「あなたは何もかも知っていたのね。優ちゃんが陽菜紀のご主人と浮気していることも、麻美ちゃんがネットで小説を書いていたことも」
形勢逆転だ、と言わんばかりに私は勢いを付けて言った。
「テレビ局は地方の局で強引さと杜撰な事実確認で有名な所よ。そこを選べば局の人たちが優ちゃんに押しかける。そうしたら優ちゃんが怒って私のところに来るのも分かっていたのでしょう。
でも、沙耶ちゃんまで巻きこむことはなかったじゃない!沙耶ちゃんがあなたに何をしたって言うの!」
一気に叫ぶように言って私は肩で荒く息をした。
熱くなる私の一方で、あくまで鈴原さんは冷静だった。顔にはまるで仮面を着けたように一定に保った微笑を浮かべている。
「厚木 優子が陽菜紀の旦那と不倫していたことは、陽菜紀を殺した後に知った。彼女の部屋に俺の犯行を裏付ける何か証拠がないか漁っていたら、出てきたネタだ。それを利用しただけ。
沙耶香さんの件に関しては完全なアクシデントだ。俺は鳥谷 麻美が小説を書いていたことも知らない」
優ちゃんのことは―――……陽菜紀を殺した後……利用―――…?
ここにきて鈴原さんが単なる異常者じゃないことを悟った。この人は、とても機転が利き頭が良く、行動力もある。
真実を知りたいと言ったし願ったが、真実を知る前に私はもしかしては―――ここから生きて出られないかもしれない。ここまで知ってしまった私を鈴原さんが放っておく筈がない。彼の中できっと私を黙らせる計画がすでに計算されているのだろう。それが何なのか皆目見当もつかない。
「でも……沙耶ちゃんは、あなたの働いてたホテルに行ったって……そこで何かを掴んだのではないの?」
私はその鈴原さんの計算式を狂わせる手立てを考えながら慎重に言葉を選んだ。
「何も掴んじゃいない。そもそもあのホテルで隠し立てする経歴なんてない」と鈴原さんはあっさりと言ってのけた。
じゃあ何で……沙耶ちゃんは鈴原さんの重要な何かを掴んでいなかったとしたら、何故、沙耶ちゃんを殺そうとしてたの―――……