■□ 死 角 □■
星に願いを

■星に願いを


「中瀬さん……!」

遠くで私を呼ぶ声がする。覚えのある―――……あれは…曽田刑事さん…?

炎が覆い尽くす赤い部屋の中、遠のいていく意識の隅で何とか認識する。
遠のいていた意識が戻ってくると、恐ろしいまでの熱さを感じた。

「中瀬さん!しっかり!」と、いつの間に居たのか私のすぐ傍で膝をついて曽田刑事さんが勢いこんでくる。その顏は火事の燃えカスなのだろうか、煤まみれであちこちが黒かった。

刑事さん……いつも以上に…いいえ、今までで一番酷い有様よ。とちょっと心の中で笑った。

その向こう側で久保田刑事さんが……

「4月28日、午前1時35分。鈴原 則都、殺人未遂及び傷害罪の現行犯で逮捕する」と緊迫した声で鈴原さんに手錠を掛けている。鈴原さんは項垂れながら刑事さんに特に抵抗するわけでもなく大人しく立ち上がった。だがその顔は蒼白で「陽菜紀…陽菜紀が…」とひたすらに陽菜紀の名をまるで呪詛のように呟いている。鏡の中には

陽菜紀はいなかった。

朦朧とする意識の中、遠くで消防車や救急車のサイレンの音も聞こえてくる。

「曽田さん!早く逃げないと!煙と火の回りが早い!!」と、鈴原さんを連れた久保田刑事さんがこちらに向かって叫ぶ。

「ああ、分かってる!!
中瀬さん!立てますか!しっかり!」と曽田刑事さんが私を抱き起こす。

力強い―――腕だった。

思えば、いつだって曽田刑事さんは力強かった。刑事さんだから、だと思えば納得だけれど、この力強さに私少し……安心するの。
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