■□ 死 角 □■
好未の告白


■好未の告白


曽田刑事さんとデートをするその日、私は彼と待ち合わせをした喫茶店に一時間早く好未ちゃんを呼び出した。

好未ちゃんは私が指定した通りの時間にきっちり現れた。好未ちゃんとは火事の事件以降、入院している私の元へお見舞いに来てくれた以来だ。

「ごめんね、急に呼び出したりして」と私が謝ると

「ううん、私も灯理ちゃんに会いたいと思ってたから。怪我の具合はどう?」

「もうほとんど大丈夫。ありがとう」と挨拶をして二人分のホットコーヒーを頼んだ。

「灯理ちゃん、何か雰囲気変わった?服のセンスとかもいつもと違うね」と好未ちゃんが目をぱちぱち。

「うん。髪も染めたの、茶色に。ちょっとイメチェン?」私は照れくさそうに笑った。

「すっごく似合ってるよ……こうやって見ると、陽菜…」

好未ちゃんはそこまで言って言葉を飲み込んだ。

まるで今はタブーのように、酷くバツが悪そうに口を覆う。

コーヒーが運ばれてきて、私はここに来てはじめて事件の真実を全て好未ちゃんに話し聞かせた。病院では絶えず私の両親や同僚が居たし、刑事さんや看護師さんもひっきりなしに出入りしていた。そんな中で話せる内容でもない。

事件の真相はマスコミにも知られていない話だ。

話を聞いて好未ちゃんの顔色がどんどん変わっていった。

「そう、だったの……」

その顔に動揺が浮かんでいた。

私は飲んでいたコーヒーのカップをゆっくりとソーサーに置き、真正面から好未ちゃんを見つめた。


「好未ちゃんは、全部知っていたのでしょう。陽菜紀の計画も、鈴原さ……山田くんのことも」


私が切り出すと好未ちゃんが目を開いた。同じようにカップをソーサーに戻そうとしていた好未ちゃんはその手を止めて

「え―――……?」と聞き返してきた。

「しらばっくれないで。陽菜紀の計画は、好未ちゃんあなたが助言したものでしょう。
陽菜紀をそそのかして、鈴原さ……山田くんがアルバイトしてた場所を教えたのも好未ちゃん」

私がきっぱりと言い切ると、好未ちゃんは何とかカップをソーサーに置き
「何でそう思うの?」と目を上げて聞いてきた。

「簡単なことよ。陽菜紀のこと昔から良く知ってる。陽菜紀がそんなこと一人で思いつくなんて思えない。悪い意味でそこまで回転が利く子じゃない。
次は消去法。優ちゃんが不倫してることを言い出したのもあなた。沙耶ちゃんは事件に巻き込まれて今も意識不明。麻美ちゃんも途中で逮捕された。もしかしたら麻美ちゃんが小説を書いていたことも知っていたんじゃない?」

私が自分なりに立てた推論を言うと

「そんなことで?私が一人何も被害が無かったから?それは言いがかりよ」と好未ちゃんがさも心外だと言った感じでムっと顔をしかめる。「不謹慎だし、無神経よ」とはじめて好未ちゃんが嫌悪を露わにした。

「もちろんそれだけじゃない。陽菜紀の殺害現場に落ちていたタバコの吸い殻。沙耶ちゃんのDNAが付着していた、と刑事さんは言っていたけれど、そのタバコには
好未ちゃん、あなたの指紋もついていたのよ」

まっすぐに好未ちゃんの目を見据えて言うと、好未ちゃんはすぐにちょっと勝ち誇ったように笑った。

「そんな筈ないわ。だって私タバコを持つとき指紋が着かないように慎重に扱ったもの」
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