■□ 死 角 □■
エピローグ
■エピローグ
『只今入ったニュースです。仁紫町の路上で女性が女にナイフで切りつけられ、病院に緊急搬送されましたが意識不明の重体です。被害者の女性は
生田 好未さん(27)
生田さんを刺し、居合わせた警察官に取り押さえられ緊急逮捕されたのは
佐竹 敦子容疑者(52)
と思われ警察は事件を詳しく捜査中です』
ピ、と音を立てて私はテレビの電源を切った。
ねぇ好未ちゃん私に言ったよね。
『私は背中を押しただけ』と。
私もそうさせてもらったわ。陽菜紀のおばちゃんと電話を繋げたまま好未ちゃんと喋ってたの。まさかおばちゃんに話を聞かれてるとは思わなかったよね。
TRRRR
電話が掛かってきて私はスマホに出た。相手は曽田刑事さんで
『すみません!中瀬さん、あの付近で事件があって……戻ったら中瀬さんの姿が無かったので……』曽田刑事さんは勢い込んだ。
私は何も答えず彼の言葉を途中で遮るように“終話”ボタンを押した。
「すみませーん、これも運んじゃっていいですか」とすぐ近くで大きな段ボールを抱えた引っ越し業者の男性がテレビを目配せ。
「ええ、もう見たいことは見たのでお願いします」と言うと、もう一名の業者さんが手際よくテレビのコードを抜いていく。
「あの、これはどうされます?」と、最近購入したばかりの姿見はまだ梱包されていなくて、業者さんがちょっと困ったように意見を仰ぎ、
「これはもう要らないです。そちらで処分してくだい」と言うと「了解しました~」と軽快な返事。
部屋はもうほとんどの荷物が運び出されて空の状態だ。いよいよ最後のテレビも運び出され、後に残ったのは私一人、と鏡―――
私は沙耶ちゃんと同じ銘柄のタバコの先に火を灯し、陽菜紀が私に託した四角と星の落書きの画用紙の先にその火種をそっと押し付けた。
画用紙はみるみるうちに燃えて、最後には黒い粕のような残骸を残して
消えた。
ほぼ空になった部屋に私は1輪の白い薔薇をそっと置き、残された姿見を覗きこんだ。
そこには確かに“陽菜紀”が居た。赤いオフショルダーのワンピースは『形見として』と言う理由で陽菜紀のおじちゃんから譲り受けたもの。
「これで、ずっと一緒だね」
私は鏡の中の私―――いいえ、陽菜紀に笑いかけた。
「あらやだ、私ったら口紅を引くの忘れちゃった」
バッグから化粧ポーチを取り出し深紅のルージュを取り出し、指で唇に乗せるとそれは以前私が腹部から流した血と酷似していた。
指に残った赤い口紅で鏡の隅に四角と星を描く。
そして足元に置かれた白い薔薇に微笑みかけ、陽菜紀がくれた財布をその横に添えた。
これでもう―――四角から出られるわよ、陽菜紀。
これからはずっと“二人”よ。
陽菜紀が“私だけ”にそう言ってくれた
白い薔薇の花言葉は
『私はあなたにふさわしい』
~END~