■□ 死 角 □■
刑事の眼

□ ■ Detective's eye■ □

中瀬 灯理とはコーヒーショップの前で別れた。彼女は駅に向かって行き、その後電車を乗り継いでアパートまで帰るらしい。
このコーヒーショップは中瀬 灯理の職場の斜向かいにあり、結構な広さだった。自家焙煎のコーヒーが売りらしいが、正直俺にはコーヒーの良さが分からない。例えインスタントを出されても、ブラジル豆の深煎りコーヒーを出されてもきっと分からないだろう。
分からないのならインスタントで充分だ。理解できない者に高級なものを与える必要はない。

分相応、と言う言葉があるように。

「中瀬 灯理、どう思いますか?」
近くに停めた車に乗り込むと唐突に、俺の相棒である久保田が聞いてきて俺は無精ひげを撫でながら

「ああ、美人だったな」と一言。

「そうじゃなくって。シロかクロかどっちですかって言う話です。曽田さんああゆうのタイプなんですか?確かに曽田さんから見たら若いですけれど、ちょっと地味じゃありません?」

久保田は「意外」と言いたげに首を捻る。
「ありゃシロだ。片岡 陽菜紀の身長は163㎝。一方の中瀬 灯理は150㎝弱って言ったところか。片岡 陽菜紀の死因は頭頂部に受けた打撃によるものだ。
物理的に中瀬 灯理には無理だ」

「確かに」と久保田が同意して頷く。

「聞き込みをしても俺たちの話に動揺してて、聴取もまともに取れないぐらい全てがあやふやだった。演技だとは思えないし。演技だったらオスカーものだ。
まぁ俺の好みのタイプではあるが、地味ではないんじゃないか?敢えてそうした格好や化粧をしてるって感じだ。目立ちたくないタイプだな」

俺は久保田の質問の内容に全て早口で答えた。

「そうっスかね~、俺には地味以外の何も感じませんでしたが。俺だったら殺された片岡 陽菜紀の方が断然好みっスけど。
さっき片岡 陽菜紀の過去に上げたSNSを見て思ったンすけど」

「あのな~、確かに片岡 陽菜紀みたいな女は流行りだろうが、俺には外見だけ飾って中身が全くないように見える」
片岡 陽菜紀のSNSはさっき久保田と一緒に確認した。決まった角度でほぼ変わり映えのない表情を浮かべていて、自分がどの角度で映ると一番美しいのか知っている感じだった。

それに比べて、確かに久保田が指摘した通り、中瀬 灯理はどっちかと言うと地味なタイプだ。片岡 陽菜紀が利用していたSNSに中瀬 灯理も片岡 陽菜紀のフォロワーとしてあったが、本人は一度も投稿していない。久保田の話によると登録だけして知人友人、その他芸能人などの投稿を見るのが専門で、そう言う人種は決して少なくないらしい。

前述した通り、中瀬 灯理は敢えて地味を装っているように思えた。中瀬 灯理の服装はキャメル色のテーラードジャケットの下に白いカットソー、ボトムはネイビーの細身のパンツ、足元は黒のパンプスと言うそっけないものだった。
バッグも化粧ポーチも決して派手ではなく、どこにでもある量販店のものだと思われる。

だが財布だけは―――

値が張るものだと、最近の若者のファッションに疎い俺にでも一目瞭然だった。
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